PR GENIC 元編集長 森奏子 – PR GENIC https://pr-genic.com “PR”をすべてのビジネス活動の中心に Thu, 06 Aug 2026 05:40:09 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.26 https://pr-genic.com/wp-content/uploads/2024/08/cropped-4495bed8051fcc9fd4ac4bababda36e3-32x32.png PR GENIC 元編集長 森奏子 – PR GENIC https://pr-genic.com 32 32 “生理タブー視”問題は次のフェーズへ。#NoBagForMeが日本社会に与えたインパクトと社会課題に立ち向かうヒント https://pr-genic.com/4673 Mon, 24 May 2021 23:00:46 +0000 https://pr-genic.com/?p=4673 生理用品ブランド「ソフィ」を通して、女性がより自分らしく過ごせる社会を目指し、自分に合った生理ケアを行うことを推進する「#NoBagForMe PROJECT」。2019年に始動後、Twitterを中心に大きな話題となり、昨年にはPRアワードグランプリでシルバーを受賞した当プロジェクトは、メンバーのどのような想いのもとで生まれ、いかなる情報戦略によってこれだけの世論形成に成功したのでしょうか。

今回は、プロジェクト発起人であるユニ・チャーム フェミニンケアブランドマネジメント部ブランドマネージャーの長井千香子さん、博報堂ケトル ディレクターの村山佳奈女さん、博報堂 PRディレクター肥塚縫伊子さんの3名に話を伺いました。

日本の生理用品マーケットの現状

性教育の遅れとユニ・チャームの創業背景

左から、ユニ・チャーム 長井さん、博報堂ケトル 村山さん、博報堂 肥塚さん

-はじめに長井さんのご経歴を教えてください。

長井:ユニ・チャームには、2004年に入社しました。翌年の2005年からマーケティング部門の配属になって以来、主に「ソフィ」を担当しています。これまでに2度産休を取得していて、復帰後はベビー事業なども担当しましたが、生理用品事業部に戻った後は、新事業として『はだおもい』ブランドの立ち上げや、パンティライナー『Kiyora』の育成などにも従事してきました。2019年には、タンポンの担当者と「#NoBagForMe PROJECT」を始動させ、メンバーの一員として参画しています。

-プロジェクトは何をきっかけに始まったのですか?

長井:ユニ・チャームは、日本国内で唯一タンポンを製造販売しているメーカーなのですが、日本のタンポン使用率は世界的に見ても非常に低いのが現状です。欧米では80%くらいの女性が利用しているにも関わらず、日本ではたったの25%程度。この結果からも、日本の女性にとって、生理用品の選択肢が非常に狭まってしまっていることがわかります。

タンポンは体内に入れる生理用品なので、生活者側からしても、CMで一方的に伝えられた程度では「使ってみよう」とはなかなかなりにくい商材です。使い始めるきっかけとして強い後押しとなっていたのは、“親しい人からのオススメ”でした。身近な母親や友人から勧められると、抵抗感が薄れつつ使い方の詳細がよく分かり、購買に繋がりやすいのです。しかし、そうした使用者が周囲にがいなければ、使う機会がないままになってしまいます。

一般的に生理用品は、初めての生理が訪れる12歳頃に母親から勧められたものを使い、大学生になる頃には生理に慣れ、20代前半頃までには自分で使用する生理用品が固定されてくる、という消費行動が見られます。そこで、20代前半頃までに「タンポン」という選択肢を知ってもらうためにも、クチコミをもっと増やさなければなりませんが、現時点で生理用品に関するクチコミ自体が非常に少ない。なぜなら、日本では生理がタブー視されているためです。

-タブー視問題に対する取り組みは、#NoBagForMe プロジェクト以前にも行っていらっしゃったのでしょうか。

長井:この問題に対するユニ・チャームの取り組みは、実は創業背景にも繋がってきます。創業された1961年は、日本では、生理用品がまだ薬局の奥に追いやられていて、“レジで店員さんに声をかけなければ買えない”というのが当たり前でした。そんな日本の薬局の現状を見た創業者が、アメリカに渡った際に店頭で堂々と並べられている生理用品を見て、「生理用品を日本でももっとオープンにしなければ」と強く感じたことがきっかけで、ユニ・チャームの事業が始まったんです。そのため、今回の取り組みも元を辿れば創業理念に通じてきます。

その後、創業者が生理用品の商流を作ったことで、ドラッグストアで棚に並べる権利を獲得。1970年代からはテレビCMの放送を開始し、様々なクレームと闘いながらも、市民権を得ることに成功しました。しかし、その後現在に至るまで大きなうねりは生まれず、数十年の間沈黙が続きました。

肥塚:この沈黙の間に「女性の社会進出」が広く普及しましたが、ここでも避けて通れないのが、女性の身体の問題です。職場の人に生理について話すことは勇気がいりますし、いざ伝えたとしても、なかなか理解されにくい部分があります。そのため、男性と同じように働くには、生理の辛さを隠し通さなければならないのが、これまでの女性の働き方でした。だからこそ次に取り組まなければならないのが、生理用品の選択肢を広げて日本の女性のQOLを高めることと、世の中全体のイメージを解きほぐして、生理について気兼ねなく話せる社会を実現することです。

村山:これまでユニ・チャームさんが取り組んでこられたことのインパクトって、非常に大きい。最近では「ブランドパーパス」などと言われることも多くなりましたが、そのずっと前から、例えば長井さんが「生理について気兼ねなく話せる社会にしたい」と語ってきたように、「ソフィ」には熱い想いを持った社員の方々が集まっている。生理のタブー視問題に対して真摯に向き合い続けているブランドなんです。

生理用品について会話されにくい世の中の空気

-先ほど、「20代前半までに生理用品の選択肢を広げてもらう必要がある」とおっしゃっていましたが、これについてはどのようにステークホルダーを設定されましたか?

長井:まず、日本で生理についての教育が遅れているのは紛れもない事実です。学校によっては、性教育に積極的なところもありますが、親御さんからクレームが来るなど、教育現場での普及ハードルはまだまだ高くなっています。そのため、生理用品の選択肢が広がるか否かは、“母親と娘”というクローズドな関係に大きく依存してしまっているのが現状です。

そこで、我々が捉えたかったひとつめのステークホルダーは、“友人同士”です。現在は4人に1人がタンポンを利用していますが、調査結果などからも、使用のきっかけは20代前半頃までに「友人と旅行や遊びに行く時に使い方を知った」という方が多いことがわかっています。しかし、ここで課題となるのが、親しい友人とメイクやご飯の話をするのと同じように、“生理の話”が入ってこないということです。そのため、「生理のことで悩んでいたら話していいんだよ」という空気感を、内と外から作りたいという想いがありました。

次に、このような背景を踏まえて、生理の話題を入れ込みやすいところはどこだろう? と考えた際に、もうひとつ上がったのが「企業」でした。これには、女性の部下を持つ上司への教育と、子を持つ親世代への再教育という、両方の意図が込められています。

肥塚:特に親世代の場合、保健体育の中でも「生理についての授業は女子しか受けていない」ということが多く、男性は学校で生理の教育をまともに受けられていません。また最近では、性犯罪も後を絶たない中で、「自らがきちんと性教育をしなければならない」と危機感を抱いている親御さんも増えています。そこで、教育現場よりも入り込みやすく、親世代へのアプローチが可能なコミュニティとして、企業をターゲットにしました。

「#NoBagForMe」で社会課題に立ち向かう

社会の利と会社の利を結ぶ「#NoBagForMe」

-このようなステークホルダー設定のもとで、実際に #NoBagForMe プロジェクトで取り組まれた活動内容を教えてください。

長井:取り組みの内容は大きく2段階に分かれています。第1弾の2019年6月からは、生理用品に関するクチコミを増やす土壌づくりのために、5名のKOLに参加いただき、SNSを中心に「生理に関する発話を促す」ようなコミュニケーションに挑戦しました。第2弾となる2020年からは、社会に対して性教育を行うために、企業向けの「みんなの生理研修」を開始しました。

-この社会活動的な取り組みに対して、目標はどのように設定されていたのですか?

長井:一つ目の目標は、長期的な視点で見て、「気兼ねなく生理のことを話せる社会の実現」です。その成果指標として、年代別のアンケート調査を定点的に実施し、世の中の「生理」に対する温度感を計ってきました。1000人以上の老若男女に対して、年代別のアンケート調査を実施しているのですが、それらの結果を見ていると、生理の当事者である女性でさえも、まだまだ正しい知識を身に付けられていないことが数字上でわかってきます。

二つ目は、プロジェクトを通じて「ナプキン以外の生理ケア用品の認知と使用率をあげること」です。これまでナプキンしか使用したことがなかった方に、タンポンなどの生理ケアに対して興味を持ってもらうことができれば、それが使用率の増加に影響し、我々の利にも直結します。そのため成果指標としては、ナプキン以外の生理ケア用品の使用率をトラッキングしています。

肥塚:現在日本でタンポンを製造しているのは『ソフィ』さんのみなので、ナプキン以外の生理ケア用品について知ってもらうことは、同時に「ソフィ=生理に様々な選択肢を提示しているブランド」と知ってもらうことにも繋がります。このような活動を年々継続して、ナプキン以外の生理用品の認知率と利用率を上げることは、女性のQOL向上に繋がるだけでなく、ソフィブランドの売上にも繋がるため、社会の利と会社の利が一致するんです。

「生理」を含むツイート数で前年比2倍を実現した情報戦略

-SNSを中心とした空気づくりについて詳しくお聞きしたいのですが、2019年に5名のKOLを起用されてから、具体的にはどのように情報を広めていかれたのですか?

村山:依頼する際に意識したのは、まずはコンセプトに共感してもらえることと、それぞれの特性がちがうこと。その上で、これまで「女性の地位向上」や「ジェンダー問題」などについて発信し続けてきた方々を「生理を語る理由のある人」として位置付け、KOLとして参画してもらいました。また、別々の分野で活躍している面々に依頼することで、より多く、様々なフォロワーへのリーチを試みました。

オファーの仕方についても、基本的には「こういうプロジェクトに取り組もうとしているのですが、どう思いますか?」という相談の形を取りました。その結果、お願いをした5名のみなさん全員から快くOKをいただくことができました。

-アサインの時点で熱量の高いKOLを集めることができたんですね。

村山:5名のみなさんには、プロジェクトメンバーの一員として、いわゆる従来の「インフルエンサー施策」とは一線を画すような活動を行っていただきました。例えば、月に一度のミーティングを開催し、 生理のタブーを解決するためのディスカッション、講義に参加してもらうなど。これまで接点のなかった面々が、ミーティングに出て語る場を作ったことで、この取り組みを“広告のフィクション”ではなく、“ドキュメンタリー”として世の中に出すことができました。

肥塚:また、いわゆるインフルエンサーの投稿のように、企業が指示した内容をそのままSNSに書いてもらうのではなく、KOL自身の声で書いてもらうことで、ファンの方に関心を持ってもらいやすい状態を作りました。KOLが発信する内容については、実は一度もこちらで確認を行っていません。生理について語る必然性がある面々が投稿しているため、フォロワーの方々にも違和感なく受け止めてもらえたのではないかと思います。

センシティブだからこそ“一般的な話題感”を醸成する

-「生理」に関する発話を促すという点では、日本の性教育の遅れだけでなく、「言わないことが美」とする日本人の価値観も、大きなハードルとしてあったのではないかと思います。そこの壁を超えるために、何か意識されたことや工夫されたことはありますか?

長井:まさに、「生理」という触れにくい話題については、掴みどころを作る必要があるので、「何に変換して語るか」を大切にしていました。例えば、「女性の生理による経済損失額は約6000億円」などと言うと、男性も興味を持ちやすくなります。これらの成果や変化を測るためにも、2019年からは、男性も定点調査の対象に加えました。

村山:また、5名のKOLに加えて、芸能人や婦人科医の方々、男女10名を含めたコミュニケーション活動も行いました。この10名をアサインすることによって、生理を“一般的な話題”として演出し、世の中にプレゼンテーションすることを意識したんです。何においても、テレビで取り上げられることによって、その話題が市民権を得た感じがしますよね。2020年には、私たちも企画スタッフとして関わった『生理キャンプ』という特番がテレビ東京で放送され、大きな反響を得ました。

肥塚:プロジェクトが始まった頃は、チーム内ですら生理を“隠語”で話していましたが、今では全くそんなことはしなくなりましたね。やはり、生理の話題に触れる機会を増やすことが大事なんだなと思います。

長井:加えて、婦人科医の方をプロジェクトメンバーとしてアサインしていたことも、ポイントのひとつです。“我慢が美徳”という日本特有の価値観も影響し、「生理痛くらい我慢しないと」と思ってしまう女性が多いようです。そのため、婦人科に通う女性の数は世界的に見て少なく、妊娠してから子宮筋腫が見つかるようなことも多々あると、婦人科医の先生方から知らされました。だからこそ、「我慢しなくて良いんだよ」ということを婦人科医の先生から言っていただくことで、婦人科に通うハードルを下げ、同時に生理についても会話しやすい空気が作る。そのため、婦人科医の方を積極的にプロジェクトに巻き込みました。

 「#NoBagForMe」で変化した世の中の課題感

 企業向けの生理研修が福利厚生を見直すきっかけに

企業で実施された『みんなの生理研修』

-#NoBagForMe プロジェクト開始から、どのような反響や成果が得られましたか?

長井:プロジェクト開始後、Twitter上の「生理」に関するツイート数は前年の2倍にまで増加しました。生理について話す人や、話すきっかけを増やすことができたのは、成果として非常に大きかったと思います。しかし、ソーシャルイシューの調査を実施して、具体的に生理の何について話されていたのかを調べると、“社会の中での生理”や“対人関係”に悩みを抱えている女性が非常に多いことがわかりました。生理にまつわるフラストレーションを解決するために、その後の企業の生理研修へと繋がっていきました。

-企業研修のあと、何か企業側で新たなアクションは生まれましたか?

長井:研修後に「生理休暇」の制度内容を見直した企業や、会社の福利厚生として、トイレにサニタリーを設置するような企業がありました。

村山:「生理の貧困」はじめ、世の中にはまだまだ表面化されていない課題がたくさん潜んでいることを思い知らされます。 政治家に女性が少ないことから、これまでどうしても生理に対する経済的な優先順位が低くなってしまい、大事な議論から抜け落ちてしまっていたんでしょうね。

肥塚:「女性の健康」や「生理」というテーマは、取り掛かるべきシーンが非常に多いです。今回も、取り組みのインパクトや社会へのメッセージ性という視点から、企業への研修を行うが良いのではないかと考え、「みんなの生理研修」実施へと踏み出しました。初めは、無料研修として公募制で行っていましたが、後半には企業側から「研修を行いたい」と声をかけていただける機会が増えたことも、大きな成果のひとつだと思います。

 PRの力で巨大な社会課題に立ち向かう

-「#NoBagForMe」の活動を通じて新たに感じたことや、これから取り組んでいきたいことがあれば教えてください。

肥塚:2019年はちょうど社会が変わり始めたタイミングだったため、世の中のテンションや動きをかなり意識していました。プロジェクトメンバーの間では、「2019年に始まっていなければ、遅すぎたね」という話もしました。

長井:生理の話が世の中でされるようになってから、生理にまつわる課題感も変わってきた気がします。当初は生理用品のパッケージデザインなどを取っ掛かりにしていましたが、今後は生理の貧困や性教育、また東京と地方の情報格差など、もっと根本的な課題にアプローチしていく必要があると感じています。SNS上の声を見ていても、生理のタブー視にまつわるコミュニケーション齟齬や、体調への不安を抱えている人の声が広がっているので。

-ローカルでいかに世論を作れるかは、今後の大きなテーマになりそうですね。

村山:近年、女性の課題をテクノロジーで解決する「フェムテック」が話題です。ただ、こうした言葉も、まだまだ全国規模では知られていないのが現状。最先端のデリケートケア商品を取り扱っているお店も、都市部にしかありませんから。日本中、生理のあるすべての人に、良質なソフィの商品を知ってもらい、届けることには大きな意味があると考えています。

肥塚:また、今後の日本の女性のQOLを上げていくという活動において、PRは非常に重要な役割を担っています。そこら中に転がっている根深い社会課題に対して、1社だけで立ち向かおうとすることはどうしても難しいです。だからこそ、今回の「#NoBagForMe」のように、様々なステークホルダーとリレーションを築き、巻き込んでいくことによって、成し得ていくものがあると思います。

長井:そうですね。生理のある女性にとって、生理は自分の生活に密接にかかわってくるものです。これからもこの活動を通じて、生理の心身のトラブル解決だけでなく、社会の中の生理タブー視によって、生理で困っている人が見過ごされないような社会を創れるよう、尽力していきたいと思います。

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令和式コミュニケーションのあるべき姿について考える~「ワンテーマ×マルチターゲット」で外野を巻き込む~ https://pr-genic.com/4615 Thu, 20 May 2021 23:00:38 +0000 https://pr-genic.com/?p=4615 生活者の趣味嗜好や価値観の多様化により、広告コミュニケーションの在り方もここ数年で大きく変化しつつあります。企業とブランドの看板を背負ってメッセージを発信していく中で、生活者と良好な関係を築くには、どのような視点や発想が求められるのでしょうか。

今回は、広告代理店とPR会社の両方での業務経験がある電通PRソリューション局の伊豆原浩太さんと、TBWA HAKUHODOの Head of  PRを経てマテリアルSTC局ゼネラルマネージャーを務める小林秀行さんに、最近気になった事例を因数分解しながら“令和式コミュニケーションのあるべき姿”についてディスカッションしていただきました。

“巻き込み型”キャンペーンが目立つ令和

左から、マテリアル 小林秀行、電通 伊豆原浩太さん

-最近お二方が気になった事例はありますか?

小林:最近目立つ事例には、「一本の太い幹(=意志)がありつつ、その周りに様々な枝葉がある」という共通項が存在しているように感じます。

たとえば、PRアワードグランプリやACC TOKYO CREATIVITY AWARDSなどで数々の賞を受賞している、『茶山台団地』の再生プロジェクト。主役(=団地)を立てつつも、それに対するアプローチ方法は複数あって、コアテーマは地域活性化でありながら、解釈の仕方は人によって幾通りもある。非常にうまくその周囲を巻き込んでいたと思います。非キャンペーンの事例で言うと、昨年話題になった星野源の『うちで踊ろう』もその最たる例ですし、コロナ禍でトイレットペーパーの買い占めが起こった際にイオンが行った「トイレットペーパーの大量陳列」も、周囲に対する呼びかけでありながら、同時に巻き込み力を持っていました。

これらを見ていると “イシュー共有型”の広告コミュニケーションは、もう古いのかもしれないと思います。どうしても、「この課題を解決するために賛同して下さい」というやり方は、ブランド側の自分勝手に聞こえてしまう。そうではなくて、「ひとりでは達成できないので、誰のどの力を貸してください」と発信したほうが、より正しいお願いごとに聞こえますよね。この余白の残し方が、令和的なコミュニケーションのポイントのひとつではないかと考えています。

伊豆原:確かに2020年のACCでは、『茶山台団地』や『雪見だいくふう』などのように、あるコアテーマが決まっていて、あとはさまざまな人々を巻き込みながら、テーマに沿って“それぞれが自由演技をしている”といった事例が評価されていましたね。

小林:『うちで踊ろう』はまさに、星野源という国民的カリスマが、さまざまなアレンジの余地を残しながら、参加の権利をみなさんに与えました。

茶山台団地の再生プロジェクト詳細はこちら⇒https://pr-genic.com/3270

伊豆原:これまでの広告コミュニケーションは、コアターゲットを設定して、彼らに刺さるワンメッセージとワンクリエイティブを当てていく、という手法が一般的でした。一方で、令和的なコミュニケーションのひとつである、様々な人々をターゲットにして、広く巻き込んでいくという手法には、大きく二つの形が見られると思います。

一つ目は、『茶山台団地』や『雪見だいくふう』『うちで踊ろう』などといった、コアテーマを設定しつつ、その中で参画する人たちに解釈を委ねる(=余白を提供する)形。二つ目は、コアテーマを設定しつつ、そのテーマのもと、様々な人ごとにメッセージを細かく使い分けて当てていく形です。生活者の趣味趣向がますます多様化する昨今の流れを踏まえると、こうしたコミュニケーションは、より有効に機能していくのかもしれません。

マルチターゲットに対して入り口を複数用意する

伊豆原:僕が2019年より担当させていただいている施策のひとつに、埼玉西武ライオンズ様の『SAVE LIONS〜消えゆく野生のライオンを救うプロジェクト〜』(絶滅の危機に瀕する野生のライオンを、チーム・ファンの皆さまがひとつになって守っていく施策)があります。施策のコアは、「ライオン保全」という社会貢献をテーマにした活動です。長年、グローバルでライオン保全に取り組む、英国のオックスフォード大学と連携しています。なお、世の中へ発信するにあたっては、「西武ライオンズ⇔SAVE LIONS(セイブライオンズ)」という、肩肘を張らず、でも活動内容を言い当てたプロジェクト名を採用。そうすることで、社会貢献関心層以外の方々へも、興味・共感や、参加の敷居を下げました。

さらに、多種多様な趣向を持つファンの方々を巻き込んでいくために、たとえば、往年のライオンズファンに反応していただけそうな「かつての球団ロゴ」をベースにしたプロジェクトロゴを開発。既存のライオンズファン向けには、バリエーションに富んだ応援グッズを開発したりしました。また、子どもたち向けには、ライオン保全をテーマにしたレクリエーションイベントも実施しています。こうして、多種多様な方々に本プロジェクトへ興味を持っていただけるフックを広く用意した結果、それぞれのファンの間で、ちいさな「ざわつき」を複層的に起こしていくことができたのだと思います。

小林:誰をうまく巻き込めると正解なのか?っていうのは、まさにPRパーソンが考えるべきポイントですよね。もちろんビジネスに結びつくことが最も大切ですし、そうでなければ予算も確保できません。だから、「購買」として刈り取れる人にアプローチしたい、という発想に自然と行きつくのも当然のことです。しかし『SAVE LIONS』のように、より多くの人と関係構築を行うこと自体が、最終的に「ライオン保全」という目的に辿り着くための手段になることもありますね。

伊豆原:さまざまな属性の人々を取り込み、「いかに興味・関心を持っていただくか」を考えるには、同時に「より多くの人を仲間にしていくためには」という発想が必要だと思います。こういった施策は理想論になってしまいがちなので、いかにピースを埋められるかがPRパーソンの腕の見せ所だと思いました。

小林:ある層をファン化させるためにコミュニケーションを設計するっていうのは、「PR」そのものが目的になりうる好例ですね。

SAVE LIONS詳細はこちら⇒https://www.seibulions.jp/news/detail/00002524.html

小林:僕は2018年に、ポプラ社の『道徳の問題、どう解く?』という絵本の自主提案に参加したことがあります。絵本の中には、それぞれジャンルの異なる13個の問題が載っているのですが、どれも絶対的な答えがない問いばかりで。たとえば、「なぜ大人は子供のケンカを止めるのに、戦争するんだろう?」や、「なぜ男の子はスカートをはかないの?」など、子どもだけでなく、大人にとっても回答することが難しいようなものです。これらの問いに対する著名人たちの回答例を特設サイトで公開し、「#どう解く」を共通ハッシュタグとしてSNS上での拡散を狙うようなこともしました。

伊豆原:「みんなで答えのない問題について考えよう」というテーマはひとつですが、入り口となるイシューがたくさんあるような設計になっているわけですね。「自分がどの問いに対して興味を持つか」という余白を残しつつ、ひとつのテーマに向かっていく構造は面白いですね。

道徳の問題、どう解く?詳細はこちら⇒https://www.poplar.co.jp/pr/doutoku/

普遍的なテーマとそれらを取り巻くイシュー

小林:伊豆原さんもおっしゃっていたように、セグメントごとにメッセージを切り分けなければならない時代です。あのセグメントにはこう話しかけて、このセグメントにはこう話しかけて、と。しかしその前提には、全体で見たときにだれもが解釈できる普遍的なテーマが必要です。

伊豆原:普遍的なテーマがあると、そこに対してセグメントごとの会話が積み重なって、結果として大きなコミュニケーションが生まれますね。

小林:2019年に大きな話題を呼んだ、パンテーンの『#この髪どうしてダメですか』も、この“ワンテーマ×マルチイシュー”の構図に当てはめることができます。「地毛証明」という大きなワンテーマがありつつも、議論できるイシューは「日本の教育現場の課題」や「個性と多様性」など、多岐に渡ります。だからこそ年代や性別を超えて、あれだけ大きなコミュニケーションが生まれたのだと思います。

伊豆原:今の時代でもやはりコアメッセージとコアターゲットは設定すべきですが、そこで完結するのではなく、コア周辺のターゲットも巻き込んでいけると、より機能するコミュニケーションへ昇華する確度が上がると思います。「このテーマについて面白いと思う人、集まれ」を生むためには、いかに魅力的な言葉で、様々な属性の人に対して参加しやすい状態を作れるかが肝だと思います。

また、より多様な人々を巻き込むコミュニケーションを設計する上で、テレビのバラエティ番組の作り方も参考になりますよね。特にゴールデンタイムのバラエティって、家族の話、恋愛の話、食の話、お金の話、医療の話…など、誰もが興味を持つテーマで企画されています。広告コミュニケーションの設計を行う際にも、こうした普遍的なテーマをコアに据えつつ、トライブごとに適したメッセージを出し分けるような手法も有効なのかもしれません。

小林:そうなんですよ、実はメディアって昔からそれをやっているんですよね。クイズ番組を例に出すと、視聴者によって違った楽しみ方ができて。アカデミック畑な人も、ミーハーも、暇つぶし勢も、みんな楽しめる仕組みになっています。より多くの視聴者が興味を持ってくれる話が何かを考えると、結局は普遍的なテーマに行きつくんですよね。メディアは視聴率を取ることがビジネスですから、自然とそういう意識になると思うのですが、キャンペーン設計においても、テーマが行き過ぎると特定のターゲット層以外はついていけなくなってしまうので、その視点はやはり大切にしたいです。

ディスカッション<前半>の結論

  1. 最近目立つ事例には、コアテーマに対して様々なターゲットを戦略的に巻きこんでいるという共通点がある
  2. これまで同様、コアターゲットとコアメッセージは設定しつつも、そこからの広がりを意識したマルチターゲットに対するメッセージも用意する
  3. コアに置くテーマは、普遍的であればあるほどコミュニケーションが広がりやすい

 

≫後半『前向きな会話を生むには“解釈の余白”が必要』

 

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生活者視点のコーポレートコミュニケーションはマーケティングにも貢献する!企業力を高めるダイキンの広報活動 https://pr-genic.com/4509 Thu, 22 Apr 2021 00:00:35 +0000 https://pr-genic.com/?p=4509 「換気」に関する知見やノウハウを収集し、日常生活で実践できるように分かりやすくまとめたダイキン独自のウェブコンテンツ、『上手な換気の方法』。全国で緊急事態宣言が発令される直前の2020年4月10日に公開されて以降、当コンテンツはSNSを中心に大きな反響を呼び、昨年には「PRアワードグランプリ2020」で見事グランプリを受賞しました。なぜダイキンは、非常事態下でウェブコンテンツ制作に力を入れ、このスピード感での情報発信を実現することができたのでしょうか。今回は、ダイキン工業株式会社 コーポレートコミュニケーション室 広報グループの重政周之さんと、株式会社インテグレート Perception/Behavior design 戦略部の倉渕雄太郎さんに、『上手な換気の方法』の取り組みの背景と、コーポレートコミュニケーションがもたらす効果について伺いました。

買い替えサイクルを意識したブランディング活動

左から、インテグレート倉渕氏、ダイキン工業重政氏

-今回PRアワードグランプリを受賞した『上手な換気の方法』の以前から、『空気とくらし』というウェブコンテンツを作り続けてこられていますよね。このコンテンツは、どのような目的のもとで始まり、これまで運用されてこられたのですか?

重政:『空気とくらし』については、コーポレートブランディング活動の一環として取り組んでいます。なぜブランディングが必要なのかというと、エアコンはそもそも毎年買っていただけるような商材ではなく、一般的に13年に1回買い替えられると言われています。そのため、「次にどのエアコンを買おうか」と、毎年エアコンメーカーについて考えて下さるようなお客様はほとんどおらず、生活者との接点を持ち続けることが非常に難しい商材です。

また、エアコンを買い替えるきっかけとして最も多いのは「故障」ですが、いざ買い替えるシーンになっても比較検討する時間が短く、メーカーやブランドへのこだわりを持たないまま、店頭で直感的に選んでしまう方が多いです。このように、エアコン特有の買い替えサイクルがある中で、商品選びのタイミングでダイキンのエアコンを指名していただくには、13年の間も生活者との繋がりを持ち続け、ダイキンの存在と活動価値を知ってもらう必要があります。これこそが、我々がブランディングに取り組む目的です。

-生活者との結びつきを作るための手段として、ウェブコンテンツによる情報発信を選択された理由はありますか?

重政:ダイキンを身近な存在として感じてもらうには、生活者のためになる有益な情報を継続的に発信し、寄り添い続けることに重きを置くべきだと考えたためです。

ウェブコンテンツを通じた生活者への情報発信の取り組みは、2011年の東日本大震災後に公開した『エアコン節電情報』から始まっています。震災直後、電力不足により節電が呼びかけられた中で、「エアコンは家電の中でも消費電力が大きい」というイメージを持たれていたため、エアコンにまつわる節電方法について発信しました。その後も、例えば2017年頃から災害レベルの猛暑が続いたことを受けて、熱中症にならないための上手なエアコンの使い方を伝えるなど、その時々に合わせて生活者にとって有益な情報を、日頃から発信し続けています。

『上手な換気の方法』で生活者に寄り添う

商品の価値訴求よりも生活者へのお役立ち度を優先する

-2011年から継続的に取り組まれてきた中で、今回の『上手な換気の方法』は、どのような経緯で始まったのですか?

重政:新型コロナウイルスの感染対策として、「換気」への注目が集まり始めた一方で、どう換気を行ったら良いか、本当に効果的なやり方を知っている人は、まだまだ少ないのが実情でした。実際にコンタクトセンターには、「エアコンを運転していれば、自動的に換気できるんですよね?」といった内容の問い合わせが最も多く寄せられたのですが、実際は、ほとんどのエアコンでは換気ができません。このような世の中の誤解を解き、正しい換気の仕方を知っていただくためにも、誰でも理解できるように嚙み砕いたコンテンツを、どこよりも早く発信する必要があると感じました。

『上手な換気の方法~住宅編~』より

倉渕:実はダイキンさんは、業界で唯一の“換気できるエアコン”を持っている企業なんです。それにも関わらず、「うちのエアコンだけは換気できます」とは言わずに、「ほとんどのエアコンでは換気ができないので、こうやって窓を開けて換気してください」と、誰もが実践できる解決策を提示されました。換気ができる自社製品の購買を促すこともできる中で、ダイキンさんはその選択をしなかったんですよね。13年の間に生活者と情緒的な繋がりを持つために、自分たちの技術力や商品を直接アピールするではなく、“どうやって困っている人々を助けるのか”というところを、徹底的にこだわられていました。これには、同じプロジェクトメンバーでありながら、非常に感銘を受けましたね。

重政:「うちの製品良いでしょ?」と伝えるだけでは、あまねく皆さまに役立つ情報ではなくなってしまいますからね。大きな社会課題に直面している時、それに乗じて自社を優位に見せるなど、“我田引水”のようなことをやっても人の心に響くことはないと思っています。それよりも、まずは皆さまのためになる情報を出し、生活者に寄り添うことのほうが、私たちにとっては大切でした。例えその場で購買に直結しなかったとしても、ダイキンの存在や取り組みに対する評価を得ることで、それが後にダイキンの製品を選択することに繋がっていくと考えています。

-“生活者にとって有益な情報”については、具体的にどのように企画を考えていらっしゃったのですか?

重政:世の中の動向を捉えながら、生活者が興味を寄せるであろうテーマを先読みし、アドバイスを加えて発信することを大切にしています。例えば、コロナ流行当初の「換気が大切」と言われ始めたタイミングでは、“家の中の上手な換気方法”について発信し、緊急事態宣言が解除されて、人々が再びオフィスに通い始めた頃には、“オフィス・店舗の上手な換気方法”について発信しました。こちら都合のタイミングでの発信ではなく、生活者にとって関係性の高いテーマ設定で、半歩先を見越しながら企画を組み立てることを心掛けています。

倉渕:表現の仕方についても生活者視点を徹底していて、ただ調査結果を報告するのではなく、具体的なアクションまでをセットで提示しながら、わかりやすく掲載することにこだわりました。専門知識的な難しい話や、文字だけの説明であれば、他のサイトでも既に公開されています。そのため、“空気の専門家”として誰でも実践できることを、誰が見てもわかるような言葉遣いで、イラストなども添えながら発信しました。

スピード感を実現するダイキン広報のチーム体制

-この『上手な換気の方法』は、企画からコンテンツ公開に至るまで、どれくらいのスピード感で動かれたのですか?

倉渕:“どこよりも早く、生活者が今欲しい情報を提示する”という意気込みがあったため、緊急事態宣言が発令される前から構想を開始し、わずか2週間で公開まで走り切りました。通常であれば、ある程度企画が固まった段階で制作会社にお声掛けをしますが、今回は企画の段階から制作会社の方にも入っていただき、ワンチームで一丸となってプロジェクトに取り組みました。結果、初めに定めた目標通り、4月10日のアップに間に合わせることができました。その間も、ウェブサイト制作メンバー以外は、既に次の施策を考えているような状態で、分担しながら複数のことを同時進行しましたね。

重政:非常事態ということで、とにかくスピード感を優先できるようなチーム体制を取りました。船頭が多いと企画が迷走してしまうこともあるため、広報の中でも「コンテンツを企画し、制作を推進する係」と、「できたコンテンツをメディア取材につなげ、より詳しい説明を交えて対応する係」などと、役割分担をはっきりさせることを意識しました。

また、もう1点心掛けていたのは、“ベストではなくベターで動く”ということです。100%の完成度を求めてしまうと、スピード感が犠牲となり、場合によっては機会損失に繋がってしまいます。そのため、正しい情報を発信することは大前提のもと、“他のものは後から追加したら良い”という精神で、スケジュール通りに公開することを最優先にしました。不完全な状態で出すことで、世の中の疑問をメディアが代弁する形で取材してくれることもあり、公開時に盛り込みきれなかった残りの部分を、メディア取材を通じて発信することもできました。当社には「一流の戦略と二流の実行力よりも、二流の戦略と一流の実行力」という考え方があるのですが、今回は特にこの教訓が活かされたと思います。

-社内ではどのようなチーム体制になっていたのですか?

重政:『上手な換気の方法』に関しては、社内の気流のプロや、商品に詳しい開発者、お客様と向き合う営業部門、メディアに伝える広報部隊など、複数部署のメンバーが入り混じったようなチーム編成で取り組みました。伝え方の部分では、どのように発信することがお客様にとってベストであるか、広告宣伝部門と広報部門の両方の立場で考え、積極的に意見交換を行っていました。『エアコン節電情報』の時よりもさらにチーム規模が大きく、関わる部門も多かったですが、日頃から他部署間のコミュニケーションが取れているため、特に困ることはありませんでしたね。

-今回このスピード感での公開が実現した要因として、ダイキンさんの企業カルチャーが大きく関係しているように感じました。

重政:ダイキンの行動指針の中にも「フラット&スピード」というものがあるため、チームで協力するカルチャーや、部署に関係なく助け合えるカルチャーは、もともと根付いているかもしれません。また、“横ぐし連携”を体制化したことも、ポイントのひとつだったと思います。チーム内の縦割りが強すぎると、化学反応が起こらなくなってしまうため、共通の目的意識を持った上で、フレキシブルに連携できる体制を整えました。当社は外部パートナーと連携する際に「協創」という言葉を使うことが多いですが、社内で「協創」が生まれる環境があることも、我々にとっては重要な要素です。部門間の連携がなければ、この『上手な換気の方法』も実現できなかったと思います。

ダイキンが実証するコーポレートコミュニケーションの効果

ファン獲得だけでなくマーケティングにも大きく貢献

-『上手な換気の方法』について、生活者からはどのようなリアクションがありましたか?

重政:ウェブコンテンツの内容をSNSでも投稿していたため、生活者からのリアクションについては、SNS上でどれだけいいねが付いているか、また何をつぶやかれているか、というところで確認していました。結果、Facebookのいいね数は14,000件を超え、Twitterでは医療機関で働いている方からの声も含め、「わかりやすい」「実践的」「ありがたい」などのツイートが数多く寄せられました。

倉渕:反響はウェブ上にも表れていて、Googleで「換気」と検索すると、『上手な換気の方法』が一番上位に表示されるようになりました。

重政:このSEOの成果も相まって、当社サイトでは商品ページへのアクセスが伸びる傾向にある中、『上手な換気の方法』へのアクセス数は50万PVまで伸びました。それ以外にも、「換気」に関連するメディア露出を1,500件以上獲得したほか、ダイキンの株価が176%(2020年4月1日と2021年4月1日の終値の比較)も上昇したり、換気が可能な『うるさらX』モデルの売り上げが前年比で175%(2020年11月単月の前年同期比)アップしたりと、行動変容を促すことにも成功しました。情緒的なコンテンツを通じた情報発信が、マーケティングの成果にも繋がったことは、非常に大きな功績だったと思います。

-株価まで動かしたPRアワード受賞事例は、初めてかもしれませんね。『上手な換気の方法』を発信しつつ、同時に他のコミュニケーションにも取り組まれていたのですか?

重政:ウェブコンテンツとはまた別の切り口で、例えば「ダイキン独自のストリーマー技術で、コロナウイルスを99.9%以上抑制できた」というプレスリリースを発信したり、換気にフォーカスした新商品群を紹介するメディア向けの発表会を開いたりと、同時に様々なことを広報から仕掛けていました。

また、ダイキンでは、商品を購入いただいたお客様に向けて『CLUB DAIKIN(クラブダイキン)』という会員制度を導入していて、会員に向けたオンラインセミナーなども積極的に行っています。セミナーでは、換気の正しい方法を直接レクチャーするなど、購入後もダイキンを身近な存在として感じ、日常的に頼ってもらえるようなテーマ設定を心掛けました。このセミナーにもメディアを誘致していますが、メディアを通じた情報発信だけでなく、生活者とも直接双方向のコミュニケーションを取ることを大切にしています。

倉渕:昨年ダイキンさんが全社一丸となって取り組んだテーマは、「コロナ禍での空気課題とどう向き合うか」であり、その中の取り組みのひとつが『上手な換気の方法』でした。今回のPRアワードでは、この「換気」切り口で評価をいただきましたが、様々な取り組みが総じて、これらの大きな結果に繋がっています。

「北風と太陽」の“太陽”のようなコミュニケーションを心掛ける

-アワードを受賞しての感想や、『上手な換気の方法』に取り組んで何か起こった変化などはありますか?

重政:まず取り組み後の変化として、メディア露出の機会が増えたことにより、色んな人から「見たよ」と声を掛けてもらえるようになりました。自社に関するメディア露出が増えることは、ダイキン社員にとってモチベーションアップにも繋がりますので、社内コミュニケーション的な効果も得られたと思います。また、PRアワードを受賞する前後あたりから、広報関連の勉強会で登壇させていただくような機会も増えました。決して賞を狙って企画したものではありませんでしたが、結果的にこのような評価をいただけたのは非常に嬉しいですし、世の中と人のためになれたのだと、実感を得ることができました。社内では、「やってよかったね」という素直な達成感があります。

倉渕:それでもダイキンさんの間では、受賞後すぐに「今回の取り組みの課題点はなんだったっけ?」という議論になっていましたね。あるメディア取材の際に、記者さんから「ダイキンさんは危機に強い企業ですね」と言われたことがあったのですが、私自身が今回ご一緒させていただいた中でも、非常にその“強さ”を感じました。全社共通の目的に対して、ひとりひとりがチームの一員としての意識を強く持ち、自分の職務を全うしようとするカルチャーが根付いているからこそ、非常事態でも臨機応援に対応できるのだと思います。対面でのコミュニケーションが難しい状況下でも、今回のようなスピード感を実現するには、日頃からの信頼関係に基づく「役割分担」と「横ぐし連携」がカギとなるため、今後もこの教訓を大切にしていきたいです。と考えています。

重政:そういう意味でも、今回の取り組みは、決してダイキンだけで頑張ったとは言えません。より効果的な提案で情報の質を高めてくれるインテグレートさんがいたからこそ、このような大きな成果を得ることができました。1週間しかない検討時間を、13年間の地道な広報活動で培ったチームワークで、最大限に活かすことができたと思います。

-最後に、コーポレートコミュニケーションにおいて、今後も心掛けていきたいことがあれば教えてください。

重政:企業が情報発信するとき、自分たちが言いたいタイミングで、言いたいことを、言いたい声の大きさで発信しても、生活者にはなかなか振り向いてもらえません。そのため私は、「北風と太陽」の“太陽”のように、日頃から生活者を優しく照らすようなコミュニケーションが大切だと考えています。これからも、お客様の役に立ち、頼りにしてもらえるような情報発信を心掛けていきたいと思います。

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なぜあなたのプレスリリースは読まれないのか?プレジデント編集長に訊く“企画の勘所” https://pr-genic.com/4444 Tue, 06 Apr 2021 23:59:13 +0000 https://pr-genic.com/?p=4444 数あるビジネス誌の中で、販売部数ナンバーワンの人気を誇る「プレジデント」。ビジネス誌では最年少となる40歳で編集長に就任し、これまで数々のヒット企画を生み出してきた小倉健一編集長は、特にこのコロナ禍においてどのように日々の情報収集を行い、どのような方への取材を行ってきたのでしょうか。今回は気になるビジネス誌の裏側に迫ります。

プレジデントの企画はどのように作られるのか

プレジデント編集長 小倉健一
1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。大学在学中に小池百合子事務所にてインターンを経験し、現小池都知事が環境大臣に就任した後は、国会議員秘書として活動する。その後、1年半の闘病生活を送ったのち、プレジデント社へ入社。編集者、副編集長を経て、2020年2月号より編集長に就任し、現在に至る。

読者の関心と編集のあり方そのものが大きく変化した1年

-普段プレジデントの企画はどのように決められているのですか?

この1年、コロナによる外部環境の変化によって、編集のあり方そのものが大きく変わりました。わたしが入社した当時から、例えば“ボーナスが入るタイミングに合わせてお金の特集を組む”など、あらかじめ季節に紐づいた企画をだいたい半年前には決定し、それに沿ってゆるゆると編集スケジュールが決まっていました。しかし、昨年の2月から始まった新型コロナウイルス感染拡大という未曽有の事態により、「季節」ごとの生活の変化や関心は薄れ、これまで当たり前に売れていたものが売れなくなる「異常経済」が始まりました。このような状況では、半年先の企画を考えることが難しいため、強制的に編集部の変革を求められましたね。

また、コロナの影響によって、書店での売れ行きやコンビニの使われ方も変化したように感じます。例えば、プレジデントでは毎年「歯医者特集」を組んでいるのですが、昨年の3月あたりは歯医者に行く人が大幅に減少していたため、感染予防としても関心の高まっていた「コロナに負けない『歯みがき』特集」に企画を直前になって変更しました。その結果、緊急事態宣言で多くの書店が休業している中で、これがコンビニですごく売れたんです。このように、販路や売れ方にも変化が起こるほど、この1年で雑誌を取り巻く環境が大きく変わってしまったと思います。

-これまで通りの編集方法が通用しなくなった中で、特に大変だったことはありますか?

コロナって、感染者数が増えている状況での「新規感染者数200人」と、減っている状況での「新規感染者数200人」では、国民の関心度合いが全く異なるんですよね。これはウェブメディアのPVを見ると明らかで、感染者が増え続けている中では、コロナ関連の記事は非常に読まれるのですが、反対に減少傾向にある中だと読まれなくなります。

みなさんもヤフーニュースのランキングを確認してみてください。コロナが増えているときは、ランキングの上位はコロナ記事ばかりになりますが、減っているときはぜんぜん違う。それは感染者数ではなく、感染者の増減と相関関係があります。このように、コロナは国民の最重要関心事項でありながら、そのコロナですら状況によって関心度合いが変化してしまう。そんな読者の関心がコロコロと変わる1年だったため、リアルタイム性が求められるものについて誌面で触れることは、非常に難しかったです。

余談ですが、これって、セブン&アイホールディングスの鈴木敏文・元社長の「天気」の話にも通じていると思いました。「気温24度」と聞くと、みなさんはどう感じますか? コンビニでは、「真冬の24度」と、「真夏の24度」を明確に分けて考えています。真冬に気温が24度だと、消費者は「暑い」と感じるため、アイスクリームやざるそばがよく売れます。しかし、「真夏の24度」では「涼しい」と感じて、おでんや温かいお茶がよく売れるんです。コロナも何か同じものを感じますよね。

ビジネス誌と広報担当者のリレーション構築

-これらの影響によって、情報収集の方法にも変化はありましたか?

編集者は普段から色んな所へ足を運び、様々な方に会う中で情報収集を行っていたため、一般企業の営業の方々と同じく、コロナ禍では新規の開拓が非常に難しくなりました。編集方法と同様に、情報収集の手段も変化してしまったので、普段からのリレーションの大切さに気付かされましたね。

これまでのように、人と話す中での“雑音交じりの情報”が取れなくなった分、わたしは新聞や週刊誌などをよく読み、他の媒体を介して情報収集を行っていました。特に週刊誌の場合、媒体ごとに特色がはっきりと分かれていて、それぞれの読者層に刺さる企画を一生懸命考えて作られているため、ネット記事とはまた違った価値を持っているんです。コロナを直接的にはほぼ扱わなかった週刊現代、コロナ後にどんな世界になるかをずっと追いかけていた月刊文藝春秋が、雑誌の中ではよく売れていました。目先のトレンドを追いかけるネットとは、また違うものを提示できることが重要でした。

-普段からのリレーションについて、企業広報に関してはどのような方と関係値を深めていらっしゃることが多いですか?

「誌面に掲載できたら面白そう」「この社長のインタビューを掲載したい」と思う企業に対しては、意図してこちらから一生懸命アプローチするようにしています。それ以外の企業でも、広報担当の方自身の話が面白いとか、出版業界の「ノリ」をよく理解しているなどのポイントがあれば、広くお付き合いさせていただくことが多いです。人間関係はゆるく持ちつつ、実際に誌面に載せる際にはシビアに考えます。

出版編集者の付き合いは本当に千差万別です。編集部の誰かと仲良くしているからといって、徹底的に批判されることも当然あります。逆に、編集者が突拍子もないことを思いついたり、なにかの気分で簡単に誌面掲載ができたりしてしまうこともあるでしょうね。

この前、「この広報担当の人、すごいな」と思ったことがあって、その方はあまり仕事ができなさそうな編集者を取り込んでいました。仕事ができない編集者・記者は、当然人付き合いも少ないし、アイデアも持っていない場合が多い。しかし、どんなにダメな人でも編集部では平等に仕事が割り振られるものです。そこで編集者に代わってアイデアを出してあげたときの、採用率の高いこと!(笑)。これは、案外、「出版人あるある」なのではないかと思いました。

仕事ができる人は隙がないため、逆に利用されて広報担当者が疲弊してしまうこともあるでしょうから、気をつけたほうがいいと思います。

ビジネス誌に企画を売り込むことは可能なのか

限定情報や調査リリースは価値が高い

-小倉編集長のもとにも、毎日たくさんのプレスリリースが届くと思いますが、これらに対してぶっちゃけどう感じていらっしゃいますか?

個人宛に1日200通近くのリリースが届きますが、その99.9%は見ていないですね。雑誌メディアの場合、既に新聞やウェブメディアに載っている2次情報は、掲載する価値がありません。そのため、不特定多数のところに一斉送信されているような、新商品を宣伝するリリースは、正直送っていただいても取り上げることが難しいです。

そもそも何のためにリリースを送るのか、という部分を考えていただければと思うのですが、例えば新商品を取り上げて欲しい場合は、その背景にあるストーリーや社長インタビューを企画として売り込み、そこから新商品紹介に落とし込む、などの方法が考えられるのではないでしょうか。こちらが求めているのは、新商品情報ではなく、ヒット商品の情報です。その中でも新商品を掲載するには、他の媒体でも得られる商品情報だけでは難しく、特別公開できるストーリーやインタビューが必要になります。

また、まだ世に出ていない最新情報や、独占情報があるもの、プレジデント専用の企画が考えられているようなものは、当たり前かもしれませんが、リリースとしての価値が高いです。加えて、調査系のリリースなども最新情報として面白いため、意識的にチェックするようにしています。

もしアンケート調査を実施して世間に自社のことを知ってほしいと考えるなら、「メディアと一緒に調査をしたい」というアプローチをするのもアリだと思います。例えば「お医者さん1000名」、経営者、弁護士、富裕層などに向けたアンケートなど、私たち編集部ではリーチが少し難しい層に対する調査を一緒にできるのであれば、双方にとってメリットがありますよね。

-「独占情報」「最新調査結果」など特別な情報であることと同時に、いかにそのメディアの特徴を理解できているかというのも問われますね。

そうですね。特にウェブメディアでの掲載を狙いたいのであれば、その媒体の情報を日々ネットでチェックすることが大切だと思います。媒体の人気記事ランキングを見ることで、どのようなネタが取り上げられ、どのような記事が多くの読者に読まれているか、つまり“今そのメディアに当たるネタが何か”がわかるようになるはずです。

紙媒体も同様で、ウェブメディアと同じイメージで雑誌を読んでいただければ、各誌の特徴や傾向がわかってくるのではないでしょうか。そのため広報担当の方は、これらの媒体研究を踏まえた上で、企画を差し込めそうな箇所や掲載イメージを思い描きながら、戦略的に情報を当てていくことが大切だと思います。プレジデントに関して言えば、やはりビジネスリーダーが読む雑誌ですので、そういう方の紹介があると取材に行きやすいですね。

“ビジネス誌映え”する企業と経営者とは

-インタビューしがいのある、また取材したいと思う経営者はどのような方ですか?

私たちは「天才の頭の中を読者にわかりやすく伝えたい」と思います。わたしが考える天才というのは、誰もマネできないようなものすごいことをやっているのだけれど、詳しく話を聞いてみると、実は身の回りのことや、当たり前のことを積み重ねているだけという。そんな方のことを指します。その最たる例が、吉本興業の大崎会長で、私たちの目には、いろいろなところで前例のないすごいビジネスが始まっているように見えるのですが、実は大崎会長の場当たり的と言ってもいいぐらいの「突然のアイデア」が、どんどんビジネスとして膨らんでいるんですよ。

以前インタビューした際に印象的だったのが、10年ほど前にテレビリモコンにNetflixのボタンが付いていることを聞いて、「有料のNetflixは、テレビのリモコンに自分たちのボタンをつけさせるのに、いくらかけたのだろう?市場規模はどうなっているのだろうか?」と興味を抱き、すぐに岡本社長にNetflixへ話を聞きに行かせたというエピソード。実際に話を聞いた後、「これは日本にもビッグウェーブが来そうだ」と大崎会長が考えた結果生まれたのが、現在Amazon Primeで独占配信されている『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シリーズです。吉本クオリティの面白さに徹底的にこだわり、制作もテレビ局ではなく吉本興業で行ったため、多くの収益が吉本興業に入っています。

私たちと同じ風景を観ているはずなのに、大崎会長だけは全然違うことを考えている。いわゆる天才型の社長のお話は、何度でも聞きたいと思いますね。

-この吉本興業さんへの取材は、何がきっかけで企画から実施に至ったのですか?

吉本興業って、闇営業の件をきっかけに、世間で「悪の組織」になってしまったじゃないですか。しかし、大崎会長のビジネス人生を振り返ると、これまで「興業」を取り巻いていたあらゆる悪を払い、近代化を図り続けてきた方なんです。

芸人の徒弟制度は、NSCという学校になりました。芸能プロダクションはみんなNSCを真似していますね。上場を廃止したことで後進性を指摘する人もいましたが、「総会屋」と呼ばれるようなブラックな人たちとの関係を、非上場という形で断ち切りました。このように、問題の本質を見抜き、前例にとらわれないプロセスで成果を出してこられています。コロナで劇場が開けないとなると、怒涛の勢いでYouTubeへ進出したのは、記憶に新しいところですね。ストーリーを持っている方のお話はやはり面白いですし、めちゃくちゃな発想に思えることも、すんなりやってのけてしまう天才社長には惹かれます。

吉本興業以外では、他のメディアに出ていて気になった方に対して、こちらからアプローチを行うことも多いです。また、身の回りの飲食店や、文房具、お笑いなど、読者と直接接している企業やサービスを前面に出すことも意識しています。例え企業規模が大きく、BtoC企業よりも収益が高かったとしても、BtoBビジネスはどうしても優先されにくい部分はありますね。

-BtoB企業でビジネスメディアへの掲載を狙う場合、どのようなトリガーが必要になりますか?

あるカテゴリーで世界1位のものや、日本1位のものなど、カテゴリートップな要素を持っていることは大切です。そこに注目のビジネスキーワードや、世の中の話題との繋がりがあると、さらに良いと思います。何か自社内に、世界一と誇れるものはないか、もう少し頑張れば1位になれるものはないか、経営者と一緒に知恵を絞ってみてはいかがでしょうか。

プレジデント編集長が注目する企業動向とビジネストレンド

DXにより経済格差や競争力格差はさらに大きくなる?

-いま小倉編集長が注目していらっしゃるキーワードやジャンルはありますか?また、アフターコロナではどのような企業が勝ち抜いていくとお考えでしょうか。

ベタですがやはり「DX」じゃないですかね。KADOKAWAグループのDXを推進するKADOKAWA Connected各務茂雄社長曰く、「DX」には売り上げを伸ばすための“攻めのDX”と、リモートワークの導入を進めるなどの“守りのDX”の2種類があると言います。中でも、特に“守りのDX”のほうが様々な企業に共通していて、ここで企業格差が開いていくことが予測されています。

“守りのDX”の失敗例で言うと、会社側でどれだけリモート体制を整えても、社員がマンションのフリーWiFiを使用することによって、映像が途切れるなどの接続エラーが生じ、コミュニケーションの質が下がってしまうようです。このようなラストワンマイルでの出来事が、“守りのDX”を進めていく上で、今後一番のネックになっていると指摘していました。

昨年、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タンさんが取材を受けて下さった際に、あれだけコロナの封じ込みに成功した理由について、「ガラケーすらもってないようなデジタル弱者を、いかに取りこぼさないかということばかりを考えていた」とおっしゃっていました。これは非常に難しいことですが、“守りのDX”にも通ずる要素だと思っています。なぜなら、会社としてどんなに立派なことを推進していても、そこに所属するビジネスパーソンの意識が低いと、取り組みに対する結果が付いてこないためです。

今後、企業がDXに投資する額はさらに大きくなっていくと思いますが、そこにすぐに適応出来た企業は勢いを増す一方で、ノウハウ不足や予算不足などから適応できなかった企業は、どんどん遅れをとってしまう。そうなると、これまでのIT革命以上に貧富の差が開き、より深刻な経済格差や競争力格差が、日本企業に襲ってくるのではないかと思います。

-そのような背景を踏まえて、小倉編集長が注目されていらっしゃる企業はありますか?

同じ出版業ということもあり、KADOKAWAグループの取り組みは面白いため、注目しています。KADOKAWAは、専用回線を持っているため、リモート会議でもコミュニケーションの質が落ちないとおっしゃるんですよね。こういったベースが整っているか否かで、会社の競争力にも大きく影響してくると思います。

日々変化する市場ニーズを捉えながら、成功への物語を伝えていく

-最後に、今後積極的に取り上げたいテーマや、ビジネス誌としての展望があれば教えてください。

わたしが編集長に就任してからは、プレジデントのコンセプトとして「成功への物語」を掲げています。雑誌を読むことによって読者の方に成功してほしいという、根本的な価値観は変わっていないため、この理念にコロナは関係ないと考えています。とは言え、世の中の関心は日々目まぐるしく変化しています。このような状況下でも、マーケットを見て市場ニーズをきちんと掴み、読者の関心ごとを探りながら、成功への物語を伝えていきたいです。

初めの話に戻りますが、昔なら半年後までの特集を語ることができましたが、今はそれをすることが出来ません。しかし、ビジネスリーダーの人生そのものの解決策を提示してくれるような、長期視点で役に立つ「教訓」へのニーズは、確実に高まっています。そのため、今は目の前の問題を解決するものよりも、先の見えない未来をより良くするための特集や、カリスマ経営者の名言を紹介するような特集を意識的に増やしていますね。「この月はこれ」という季節性がなくなってしまった分、長期的に価値を提供し続けられる、読者の未来を明るく出来るような企画を、これからも生み続けていきたいと思います。

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テレワーク下でも社員の熱量を高めるには。今求められるインターナルコミュニケーションの役割と手段 https://pr-genic.com/4378 Mon, 22 Mar 2021 23:00:03 +0000 https://pr-genic.com/?p=4378 テレワークの導入が進み、これまで通りの対面コミュニケーションが難しくなった今、社員のモチベーションやエンゲージメントアップに課題を感じている企業は多いのではないでしょうか。遠隔でも社員との円滑なコミュニケーションと意志疎通を実現するために、インターナルコミュニケーションの重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。

今回は、「インターナルコミュニケーションで企業価値向上に寄与する」をミッションとして掲げ、毎年『社内報アワード』を主催しているウィズワークス株式会社で代表取締役社長 兼 CEOを務める、浪木克文さんに話を伺いました。

インターナルコミュニケーションが企業課題を解決する

インターナルコミュニケーションの概念と役割

-企業にとってのインターナルコミュニケーションの重要性について教えてください。

「インターナルコミュニケーション」という言葉の歴史はまだ浅く、ここ10年ほどで使われるようになりました。それ以前は、「インナーコミュニケーション」や「社内広報」という言葉が使われてきましたが、「社内広報」と言うと“社内への情報浸透”がメインの目的となるため、意味合いが少し異なるんですよね。「インターナルコミュニケーション」は、もっと上位の概念であり、様々な企業課題を解決するものです。

私は、インターナルコミュニケーションには大きく4つの役割があると考えています。

1つ目は、会社の変革をスムーズに行うこと。会社は、人生と同じようにさまざまなライフイベントを迎えます。我々はそれを上の図の9つに分類していて、このライフイベントごとに会社の変革が求められる際に、インターナルコミュニケーションがその手助けをしてくれると考えています。

2つ目は、様々な組織課題を解決すること。事業部同士の横の連携が取れない、経営者と現場メンバーの意識の乖離、若手の離職、M&A後のシナジーが生まれない……など、これらの組織課題は、インターナルコミュニケーションによって解決されることが期待できます。

3つ目は、会社としての新たな取り組みを前に進めること。経営をしていく中では、たとえばコンプライアンスやSDGs、DXなど、社会的な動向への適応が求められます。このような、会社として新たに取り組むべきテーマを前に進める際にも、インターナルコミュニケーションが重要な役目を果たします。

4つ目は、社員への理念浸透の手助けをすること。トップが社員に対してメッセージを発信する際に、一方的な発信ばかりでは自分ゴト化がしづらく、なかなか理念浸透にまで至らないケースがあります。そのような場合でも、インターナルコミュニケーションを強化することによって、社員への理念浸透が促進されます。

インターナルコミュニケーションは対外的なブランディングに繋がる

-インターナルコミュニケーションに取り組むことは、対外的にも何かメリットがあるのでしょうか。

インターナルコミュニケーションは、決して社内のみに効果をもたらすものではありません。まずインターナルコミュニケーションによって、働く社員をブランディングすることにより、社員は自社のことが大好きになります。そんな自社が大好きな社員が、商品開発や接客に関わることによって、企業の魅力は社員を伝って外へと伝搬し、そのモチベーションの高さが成果に繋がっていきます。また、今はSNSで個人が情報発信者になれる時代であるため、自社が好きな社員が増えれば、自発的でポジティブな情報発信も増えます。

このように、インターナルコミュニケーションは、インターナルからエクスターナルへと働きかけていくものであるため、結果として外に対する企業のブランディングも加速されます。どれだけ対外的なブランディングを行っていても、そもそも社員が会社のことを好きでなければ、それは無意味なものになってしまう。だからまずは、社員に会社を好きになってもらうためのインターナルコミュニケーションが大切だと思います。

-ここ最近のインターナルコミュニケーションの潮流などはありますか?

特に最近感じるのは、ベンチャー企業ほどインターナルコミュニケーションを強く意識しているということです。スタートアップやベンチャー企業の場合、リファラル採用が主流になるため、優秀でカルチャーフィットする人を採用するには、社員へのブランディングが必要不可欠となります。それに加えて、最近では社員を大切にする経営者が増えているということも、インターナルコミュニケーションへの注目が集まる要因の一つになっています。

また、これまでは「社員数が300人を超えたら、インターナルコミュニケーション用のツールが必要」と言われていましたが、最近では数十人の企業規模でもツールの導入が進んでいます。インターナルコミュニケーションツールの定義は、「社員のエンゲージメントを高めて、持続的に会社の成長を後押しするもの」です。インターナルコミュニケーションは、企業の組織課題を解決し、次のステージへと進める際に重要な役割を果たすものであるため、会社の規模に関係なく注力されるべき領域だと捉えています。

テレワーク中のインターナルコミュニケーション

非常事態で高まるインターナルコミュニケーションの重要性

-このコロナ禍で、インターナルコミュニケーションの重要性はさらに高まっていると思います。インターナルコミュニケーションが担う役割や、求められる効果に変化はありましたか?

コロナの流行によって、社会的な不安や業績への不安、また雇用に対する不安など、誰もが一時は不安定な状態になりました。また、テレワークの導入によって多様化した働き方に対して、どのように対応し、社員とのエンゲージメントをどう高めていくか、様々な課題がこのコロナによって一気に押し寄せられました。これらの不安を払拭して、社員のモチベーションを維持し、会社として次のステージに進む力を高めること。それが、このコロナ禍で求められるようになった、インターナルコミュニケーションが果たすべき新たな役割だと思います。

-テレワークの普及により、社員同士のエンゲージメントを高めることが、以前よりも難しくなっているのではないかと思います。

これまで作っていた紙の社内報が社員に届けられなかったり、会社のイントラネットに自宅からアクセスできなかったりと、テレワークの導入によってこれまで通りのやり方が通用しなくなりました。また、発信するコンテンツについても、取材の難しさから企画を考え直す必要が出てくるなど、様々な課題が発生しています。社内報を発行するそもそもの目的や、使うツールの選定、また作るコンテンツの内容が、このコロナの影響で大きく変化したと思います。

弊社の調査結果から、今年の3月から4月にかけて、社内報の紙からウェブへの移行が本格化すると予測されています。既に、ウェブ上に掲示板を設ける企業や、動画コンテンツの制作と発信に取り組む企業が現れていますし、Clubhouseをはじめとした音声プラットフォームの活用など、新たな形でのコミュニケーションが可能になっています。このようにウェブ化が進むことによってツールの多様化が後押しされ、双方向のコミュニケーションが活発になるなど、インターナルコミュニケーションをより良い方向に加速できると考えています。

“リアル”から“オンライン”へシフトしたことによるメリット

-テレワーク中もインターナルコミュニケーションを深めるためには、具体的にどのような活動が有効だとお考えですか?

ある旅行会社さんは社内報専用のアプリを導入していて、非常に良い取り組みだと思いました。同社は以前からアプリの導入を検討されていましたが、このコロナで業界的に大きなダメージを受け、社員の皆さんが不安な状態になっている中で、どのようなメッセージやコンテンツを発信していくべきか考え、本格的に社内報のアプリを導入しました。それによって、テレワーク中の社員とも繋がりやすくなっただけでなく、アプリ内で出した記事へのリアクションが可能になったり、手軽にアンケートを実施できたりと、双方向のコミュニケーションが成り立つようになったんです。アプリのおかげで、経営陣も社員の意見やアイデアをダイレクトに受け取れるようになり、PDCAを回す速度も速くなったと伺いました。

また、リアルイベントの実施が厳しくなったため、社員総会や中期経営計画の発表会などで、オンラインイベントを有効的に取り入れている会社も多く見られました。このイベントのオンライン化にも、たくさんのメリットがあります。最も大きいのは、参加者との距離がなくなること。交通費をかけずに誰でも参加できるため、地方との距離を縮めてくれました。また、トップメッセージを発信するようなシーンでも、これまでは社長が会場に集まった社員のほうを向いて話していましたが、オンラインでは自分の顔を見ながら発信することになるため、社長自らが直接自分に語りかけるように話すことで、これまでとは全く違った伝わり方になるという調査結果も出ています。

加えて、働く場所がオフィスから自宅に切り替わったことにより、これまで以上に社員の家族も含めたブランディングが求められるようになりました。そこで、今までは家族を会社に招いていたファミリーイベントをオンラインで実施し、会社だけでなく商品やサービスへの理解も深めてもらうなど、社員の家族へのコミュニケーションもうまく取り入れている企業もありました。他にもユニークな例で言えば、Yahoo!JAPANさんは、「アップデートジャパン」という社内報動画をYouTubeでも公開していて、社員向けのコンテンツを対外的にも発信することで、様々なステークホルダーからの信頼獲得に繋げています。このように、インターナルコミュニケーションのオンライン化にはメリットもたくさんあるんですよ。

≫次のページ『“目的が明確な社内報”の存在が組織を良くする』

 

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人間味のある音楽サブスクで差別化を図る。熱狂的ユーザーを生む『AWA』のブランド戦略 https://pr-genic.com/4368 Thu, 18 Mar 2021 23:00:07 +0000 https://pr-genic.com/?p=4368 ヘビーユーザー率が最も高いと言われる、国内最大級の定額制音楽ストリーミングサービス、『AWA』。今後CDが衰退することを見越して、2015年にサイバーエージェントとエイベックス・デジタルの合弁で生まれたAWAは、日本の音楽サブスクリプション市場を切り開くべく、どこよりも早くサービスの提供を開始しました。

しかし、さまざまなジャンルのサブスクリプションサービスが普及した今、特に音楽配信の領域においては、配信曲や利用料金にほとんど差がないため、サービスごとの差別化が非常に難しくなっています。そんな中で、日本の音楽配信サービスを牽引するAWAは、どのように競合サービスとの差別化を図り、熱狂的なユーザーを獲得していったのでしょうか。今回は、AWA株式会社ブランディンググループの佐川芳孝さんに、AWAのブランド戦略について話を伺いました。

UGC要素を取り入れた音楽配信サービス

AWAのベースにある、ユーザーの熱量を高めるプロダクト設計

-AWAのサービスの特徴を教えてください。

AWAの特徴は「UX」と「UI」にあって、日本人に合わせたプロダクトの作り方になっています。他社の音楽配信サービスは、CDショップの棚のような作りになっているのに対し、AWAは「プレイリストを軸に動かす」というコンセプトを掲げていて、プレイリストを通して楽曲を展開していることが特徴です。ユーザーの嗜好性やテーマ、シーズナルなど、その時々にぴったりな楽曲を提供できるように、AWAがプレイリストを通じてレコメンドする 。そこに、人が思いを込めて選曲した楽曲と、プレイリスト作成の想いを綴ったテキストがあり、機械的になりがちなサブスクリプションサービスにも、人間の温かみを持たせています。

また、AWAから提供するプレイリストに加えて、ユーザーが楽曲やプレイリストにポップを付けられるような、UGC(=ユーザー生成コンテンツ)的な要素も取り入れています。ひとつひとつの楽曲をコンテンツ化させることによって、ユーザー同士のコミュニケーションが発生し、AWA内に独自の生態系が生まれるイメージです。このような、サブスクリプションサービスでは感じられにくい人間の温かみや、ユーザー参加型の要素を大切にしてきた結果、入会してからの継続率や満足度は、競合の音楽配信サービスよりも高い数字になっています。

-競合のサービスと比較して、ユーザー層にも違いが見られますか?

音楽に対する熱量が高いユーザーが多く、年代的には25歳~40歳ぐらいがボリュームゾーンになっています。そのため、提供するプレイリストも、より熱狂的なファンが多いゾーンを狙っていて、最近ではアニメ系のプレイリストや、声優セレクトのプレイリストなどにも力を入れています。大衆向けというよりも、アニメのようなファンの粘着度が高いニッチゾーンほど、AWAのユーザーにはヒットしやすい傾向があります。その他にも、50代前後で、音楽の知識が豊富なCD全盛期を経験した世代の方も、AWAのコミュニケーション機能を使いこなして下さっています。

写真のSNSならInstagram、音楽のSNSならAWA

-サブスクリプションサービスで、「コミュニケーション」というワードが使われることはなかなかないと思います。

コミュニケーションは、サービスのファンづくりにおいて欠かせないものだと考えています。AWAの独自の体験価値として、“音楽を通じて人と交流できる”ことを大切にしているため、SNSでプレイリストをシェアできる機能は、早い段階で導入しました。写真の代表的なSNSがInstagramで、テキストのSNSがTwitterであれば、我々は「音楽のSNSと言えばAWA」と認識されるようなプロダクトを目指しています。

-そうなると、AWA界のインフルエンサー的存在もこれまでに生まれてきたのではないでしょうか。

まさしく、AWAには「プレイリスターランキング」というものがあって、その上位にランクインしているユーザーはインフルエンサー的な要素を持っています。これは、プレイリストの再生回数の多さだけでなく、コミュニティ内でのプレイリストに対する評価など、様々な指標によってランク付けされているもので、プレイリストを作る人のモチベーションアップにも貢献しています。このような、サービスにのめり込める仕掛けをUXやUIに盛り込んできた結果として、ヘビーユーザー率を高めることができたのではないでしょうか。

サービスに関する発話を促すキャンペーン設計

音楽業界が大きなダメージを受けた1年

-コロナによるユーザー数やサービス利用時間に変化はありましたか?

通勤通学による移動時間がなくなったことで、視聴スタイルや視聴時間の変化はありましたが、良くも悪くもサブスク自体の変化はほとんどありませんでした。おうち時間で勢いに乗ったのはやはり動画で、ライブ映像を見る機会は増えたのかもしれません。ただ、ChromecastやAndroid TVなどを使用しての視聴はコロナ禍で増えており、移動時間で聴く機会の減ったユーザーが家の中で楽しむという傾向はあるようです。

しかし、音楽業界的に受けたダメージは甚大です。特に、新曲を出せなくなった影響はユーザーの視聴傾向にも表れていて、コロナ前とコロナ後で楽曲の視聴傾向を調べたところ、総再生回数は変わらないものの、20%ほど新曲の割合が減っていることがわかりました。代わりに上がっていたのが「懐メロ」で、この不安な状況が続く中で、過去によく聞いてた音楽に安らぎを求める人が多かったのではないかと予測しています。このような調査結果についても、ユーザーに知ってもらいたいため、積極的にニュースリリースとして発信しています。

チャリティーキャンペーンで音楽サブスクにも愛着を持たせる

-毎年年末に行われている企画「GET YOUR TRENDS」の中で、昨年はライブエンタメ業界への支援を目的としたチャリティーキャンペーンを実施されていましたね。このキャンペーンを企画される際に、意識されたことや込めた想いなどはありますか?

年末に行ったチャリティーキャンペーンは、「#2020のわたしを支えてくれた曲」のハッシュタグと共に、その1年でよく聴いた楽曲の結果をTwitterに投稿すると、1人につき100円が、AWAから音楽業界3団体が運営する基金「Music Cross Aid」へ寄付されるというものです。昨年は、ライブエンタテインメント産業が大きなダメージを受けた年だったため、記憶の風化防止と継続的な支援の促進を目的に取り組みました。

一方、もうひとつの目的として「サービスに関する発話を促す」というものもありました。サブスクリプションはあくまでツールであるため、愛着が持ちづらく、ユーザーからサービスについて発話されることはほとんどありません。また、大抵の音楽配信サービスが、初めの1か月は無料で利用できるということもあって、実はサービス間で乗り換えを行う人もたくさんいます。AWAについても、これまでサービスについて発話されることがほとんどなかったため、ユーザーからの発話を促し、サービスに愛着を持ってもらえるような企画を作りたいという想いがありました。

そこで、これまで毎年行っていた「GET YOUR TRENDS」を、もっと外部に向けて発信されるようにアレンジしたのが、「#2020のわたしを支えてくれた曲」です。今年1年間でよく聞いたアーティストや楽曲に対して、SNS上で応援と感謝の気持ちを伝えたくなるような仕掛けを用意することで、サービスに関する発話のきっかけを作りました。

結果、このハッシュタグを用いたユーザーからの投稿は多く発生し、どの投稿も高いエンゲージメントを獲得。さらに、外部ユーザーからも「こういう活動はすごくいいなぁって思う。 AWAは今メインで使ってないけど、応援したくなる」「エンタメ業界は大変な年でしたが、こういう気持ちに支えられて前に進めます」などとAWAに関する発話が行われ、特設サイトでのセッション時間は、前年と比較して2倍まで跳ね上がりました。結果的に寄付金も大きく集まり、多くのユーザーや音楽業界にメリットをもたらしただけでなく、このキャンペーンに接触した多くの方が、AWAへの愛着を持ってくれたのではないかと思います。

ユーザーとアーティストの新たな接点を創出する

SNS性を大きく反映させた新機能「LOUNGE」のリリース

-今後機能として充実させたいことはありますか?

先週、新機能で「LOUNGE」というものをリリースしました。これは、ユーザー同士が同じ空間で、同じ音楽を楽しみながらチャットできる新機能です。これまではβ版として、「LOUNGE」イベントを不定期開催していましたが、急上昇チャートの上位が「LOUNGE」で流れた曲で独占されるなど、ユーザーからの反響も非常に大きかったため、今回正式リリースに至りました。今後は、ユーザーが自ら「LOUNGE」の部屋を作れる機能を追加するほか、ブラウザ上でも同じサービスを楽しめるようにする予定です。

昨年リリースしたコメント機能から、ユーザー同士のコミュニケーションにニーズがある兆しが見えていたため、同じ部屋に集まったユーザー同士で交流できる機能を実装し、SNS性を大きく反映させました。それに加えて、音楽配信アプリをダウンロードするほどでもないようなライト層に対してもアプローチするため、無料での利用を可能にしています。

-SNSのライブ配信的な要素が強いですね。

目指しているのは、CGM(=ユーザー生成メディア)性を持ったサービスです。ユーザーがコンテンツを生み出し、また別のユーザーがそのコンテンツを拡散したり、コンテンツ内でコミュニケーションを取ったりする。そんなCGM性を高める機能や新サービスを、今後も開発して展開していきたいと考えています。

また、コロナ禍の文脈で言うと、ユーザーとアーティストの接点が薄くなってしまっているため、その接点づくりを音楽配信サービスとしても行っていきたいです。特にまだ若手のアーティストにとっては、ライブ機会の損失は非常に大きなダメージであり、自分たちのことを知ってもらえるような新たな場の創出が求められています。そこで、20歳以下の若手アーティストの知名度向上を目的とした楽曲コンテスト「AWA ROOKIES STAGE」を、今年の1月から開始しました。この他にも、サービス内にメディアを立ち上げて楽曲の紹介を行うなど、ユーザーとアーティストの接点となるような場を積極的に提供していきたいと思います。

人間味溢れる音楽サブスクが熱狂的なユーザーを生み出す

-これまでのお話で、競合サービスとの差別化が難しい中でも、AWA独自の体験価値向上に邁進し、「AWAのファンを作る」ためのサービス設計やキャンペーン企画に取り組んでこられたということが伝わってきました。

動画配信サービスであれば、「独占配信」という言葉がよく使われているように、サービスごとに配信されている作品が異なりますが、音楽配信サービスの場合は楽曲の配信数はどこのサービスもほとんど同じです。今は、アマチュアのアーティストが自ら投稿した楽曲さえも、全サブスクサービスで流れるような時代ですし、価格帯も横並びなので、差別化できる要素が非常に少ないんですよね。

しかし、そんな差別化が難しい市場の中でも、AWAだけにしかない体験価値を創出することにこれまで尽力してきましたし、見せかけだけでなく、きちんとユーザーファーストにこだわり、本質的な価値向上に努めてきました。純国産で本腰を入れている音楽配信サービスは他にないと思うので、これからも日本基準で、日本のユーザー特性に合ったサービスを展開していきたいです。

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心を動かす広告クリエイティブは、PR発想でつくる。クリエイティブディレクター×PRプランナー対談 https://pr-genic.com/4347 Thu, 11 Mar 2021 23:00:47 +0000 https://pr-genic.com/?p=4347 2月16日(火)に、オンラインセミナー『HOW TO BRING PR IDEA TO CREATIVE』が開催され、ADK、電通、電通デジタルを経て2021年にSaku Inc.を設立した、クリエイティブディレクターの佐久間崇氏と、株式会社マテリアル ストーリーテリングセンターゼネラルマネージャーの小林秀行が登壇しました。本記事では、本セミナーの第1部「PR視点を取り入れながら全体設計を行う方法」のレポートをお届けします。

PRプランナーが定義する「PR」の発想術

プログラムの第一部では、TBWA HAKUHODOの Head of PR を経て、マテリアルでもPRプランニングを追求し続けている小林秀行より、「PR視点を取り入れながら全体設計を行う方法」について語られました。

PRは“世の中にとって必要なもの”へと翻訳する仕事

冒頭で小林は、「PR(パブリックリレーション)の思考法が担える役割は非常に広い」と前置きした上で、「そのままでは人々にとって関係のないものを、関係あるものへと昇華する発想術」的な側面があると定義。それを踏まえ、PRパーソンはストーリーテラーとして振る舞うべきだと説きました。

<ストーリーテラーの思考順序>

  1. コンテクスト:どのような文脈やステージであれば、そのブランドがヒーローになれるのか考え、
  2. オーディエンス:狭めた購買ターゲットに縛られず、どのような人ならブランドに関心持って発話してくれるか考え、
  3. シナリオ:それらをストーリーに落とし込みながら、継続的に機能する仕組みをつくる

あるブランドをプロモーションする際に、そのままブランドが伝えたいことを発信したり、情報提供の仕方を少し工夫をしたりするだけでは、なかなかメディアに露出せず、会話も起こりません。この「露出しない」「会話が起こらない」の原因は、PRの経験を積むことによって、単純なことだと気が付いたと言います。

テレビ、新聞、雑誌のようなオールドメディアに限らず、全てのメディアにとって必要なのは「視聴数」「購入数」「PV数」です。はたまたSNSに関しては、例えばユーザー側の投稿を促すようなクリエイティブがあったとしても、ユーザーが「これを私のSNSで投稿したら滑る」と判断した瞬間に、その投稿はされなくなってしまいます。メディアにしても生活者にしても、情報を発信した先の見られ方や、世の中からのリアクションを気にするため、取り上げるネタに慎重になるのは当然のことなのです。

しかし、必ずしもブランドから発信したいメッセージや、プロモーションとして取り上げたいテーマが、大衆の関心と合致しないことは往々にしてあります。そこでPRパーソンは、そのまま情報を出しても「自分たちにとって関係のないもの」として流されてしまうようなものを、文脈やブランドの見え方を変えることによって、世の中にとって重要なものへと翻訳しなければなりません。それはつまり、メディアやSNSユーザーにとって、「自分たちが発信して、視聴者・読者に知ってもらうべき情報」「自分やフォロワーに関係のある情報」だと思わせることと一致します。

ブランドが主人公になれるステージを探る

小林が前職で2016年に担当した、「TECH for LIFE」もまさに、ブランドの見え方を世の中の関心ごとへと翻訳した事例のひとつです。

日産自動車は、最先端の自動運転テクノロジーを追及し続けています。しかし、自動運転テクノロジーそのものに興味を持つのは、まだまだ最新技術に敏感な人止まり。そこで、どうすれば自動運転のテクノロジーをより多くの人に関わるものへと昇華し、興味を持ってもらえるか、そのセットアップをするために、ストーリーテラーの思考順序に沿ってPRに注力したと説明しました。

まず、「そのブランドはどのような市場で活躍できるのか」という、“ブランドが主人公になれるステージ”を探すことから始めます。次に、購買ターゲット=オーディエンスを狭めた戦略的なターゲットと限定せず、「どのような人であれば、このブランドに関心を持ち、会話してくれるだろうか」「あるいは次の顧客になってくれるだろうか」という、“熱狂観客”がどこにいるかを探ります。最後に、これらを繋いで起承転結のストーリーをつくり、足りないパーツを埋める作業を行います。

ここで大切なのは、ひとつの施策を打ち上げて終わりではなく、継続的にブランドとしてコミュニケーションできるストーリーを作ることです。日産のプロジェクトも、文脈を変えながら何年もの間継続して行われ、結果として多くの人から「自動運転テクノロジーと言えば日産」というパーセプションを得ることに成功しました。

一流クリエイティブディレクターの思考回路

第二部で登壇したのは、ADK、電通、電通デジタルを経て2021年にSaku Inc.を設立した、クリエイティブディレクターの佐久間崇氏。クリエイティブ分野の出身ではなく、マーケティングストラテジストからコミュニケーションプランナーとして活動してきた佐久間氏は、「昔から、テレビCMのような“マス広告枠を買う”以外のやり方をトライし続けてきた」と自身のキャリアについて紹介しました。

上の図で示しているのは、「広告型の思考法」と「統合型の思考法」の違いです。左側は、「What to say」=何を伝えるかを考えて、「how to say」=どのように伝えるかを練るという考え方で、よくコピーライティングや広告の基本として言われています。

一方で右側は、「What to do」=何をするかを考えて、「How to do」=どのように実現するかを練るという佐久間氏流の考え方で、「キャンペーンを通じて、ブランドが世の中のどのような課題に対して取り組み、どのように状況を良くするのか。それをアイデアのコアに置きながら、実現するためのアクションとしてコミュニケーション手法を考えている」と加えました。新商品をプロモーションしたいからテレビCMを使う、と考えるのではなく、もっとフリーな思考で「ブランドとして何を実現するのか」という目的に立ち返ること。そうやって上位概念で広告を捉え直していくことで、自然とPR発想を取り入れることに繋がると説明しました。

マクセルの『ずっとずっと。』シリーズ

佐久間氏がこの「統合型コミュニケーション」の型に則って取り組んだひとつめの事例が、2007年に放送されたマクセルのテレビCM『ずっとずっと。新留小学校篇』です。

①長期保存性能の需要を喚起
初めのオリエンでクライアントから受けたオーダーは、「マクセルの長期保存性能をアピールして売り上げを伸ばしたい」という、いたってシンプルなものでした。そこで佐久間氏は、ひとりのユーザーとして店頭に足を運んだ時に、“少し高くて、長期保存性能がいい”というだけでは、他の大手製品と並んでいる中で選んでもらえにくいのではないかと、客観的な立場で考えます。長期保存性能をアピールして「買ってください」と言うのではなく、お客さん側から長期保存性能が必要だと感じて「これください」と思ってもらうこと。そんな空気づくりとパーセプションチェンジが必要であると考え、まずは“長期保存性のが求められるシーン”を探ったと説明しました。

②消費者インサイトからコンセプト策定
実際に様々な調査を通じてインサイトを探った結果、見れなくなってしまったら困るものとして上位に上がったのは、自分で撮影したビデオや録画でした。例え何気ない日常であっても、子供の頃の映像など自らビデオで撮影したものは、いつまでも見れる状態であってほしい。そんな普遍的なインサイトに辿り着き、そこから「パーソナルな想い出はマクセルのDVDで残そう」というコンセプトを発見します。このコンセプトにより、「マクセル=大切な思い出を残すブランド」という新たなコンテクストが生まれ、“大切な思い出を長期保存してほしいからこそ、品質にこだわって商品を作っている”という、マクセルの企業としての意志が言語化されたのです。

③ブランドコンセプトを体現する映像
これらの思考を経て、佐久間氏が提案して実施に至ったのが、自分たちの思い出を残したい小学校を募集して“タイムカプセルの映像版をつくる”というものでした。結果的に、休校が決まっていた新留小学校の「最後の七日間」を撮影し、CM放送という形で応援する、プロジェクト形式のプロモーションを実施。ブランドの姿勢を示すアクションによって、「自分の大事な思い出を残すなら、長期保存性能のよいDVDがいい」というメッセージを伝えた結果、消費者の購買行動にまで影響を与え、売上を伸ばすことに成功しました。

小学校の映像タイムカプセルを残したり、スポットCMを放送したりと、具体的に様々なアクションを行っていますが、これらの幹となるコンセプト作り=「What to do」に最も時間がかかったと、佐久間氏は当時を振り返りました。アクションの表現方法を考えること以上に、「何をすればブランドとお客さんが繋がって、新たな価値創造をできるのか」というところを突き詰めて考えること。それが佐久間氏流の企画作りなのです。

資生堂の『資生堂 表情プロジェクト』

続いて紹介されたのは、2017年実施の『資生堂 表情プロジェクト』です。初めのオリエンでは、それまで薬事の問題で制限されていた「しわ改善」という表現が使えるようになったことを機に、「しわ改善成分が搭載された商品で、カテゴリートップを獲っていくための道筋を作る」というミッションだけが定まっている状態だったそう。このミッションに対して、佐久間氏は3つの視点から“表情を縛り付けている「しわ」から、人本来の美しい表情を開放するものへ”と変革するコミュニケーション戦略を設計します。

①競合視点:勝てる競争軸を探す
当時の「しわ改善」の部門では、ポーラが先行して圧倒的な支持を得ていました。同じ市場の中でポーラを追い抜こうとすると、それを上回る量の広告を出稿するなど、厳しい戦い方が強いられることになります。そこで佐久間氏は、同じ土俵で勝負するのではなく、資生堂が勝てる競争軸を新たに打ち出す必要があると考えました。

②自社視点:ブランドのイメージ資産を活用
資生堂には、既に「美白」市場ナンバーワンの実績がありました。これについて、もし「美白」ではなく「しみ改善」の文脈だった場合、同じようにナンバーワンを獲れただろうか?と考えた佐久間氏は、資生堂のブランドイメージ資産を活かして、“しわも人間の美しさの一つ”と捉える方向性を見出します。

③消費者視点:しわを気にして笑えないというインサイト
現在「美しさ」の定義は年々変化していますが、2017年の当時でも、美=表面的な美しさから内面的な美しさへと変化しつつありました。表情はその人の内面を表すものであり、表情を介した日々のコミュニケーションの中に、その人の内面の美しさや、人生の美しさが感じられます。

また、佐久間氏は自身の経験として、子供の保護者会に参加した際に、お母さんたちがみんな写真に写りたがらず、映るとしてもすまし顔であったことを思い出します。そこから、「しわを気にして思い切り笑えていないのではないか」という仮説を立て、実際に調査を実施。その結果、見立て通り「シワが無ければ思いっきり笑える」「撮られた瞬間に今シワ見えたかしらと思うこと自体が嫌」という回答が多く、しわが人々の表情を縛り付けていることが明らかになりました。

これらの3つの視点から、戦略アイデアのコアを「表情を縛りつけているしわから、人本来の美しい表情を解放する。」と策定。この、資生堂がしわ改善化粧品を開発する理由=ストーリーを軸にしながら、エグゼキューションとしてはテレビCMやイベントに加え、しわと表情の関係を探るウェブ動画制作と調査PRを実施するなど、商品ごとにメッセージを変えながら幅広く展開されました。このように、様々な角度から「表情を解放する」アクションを行った結果、売り上げ拡大にも大きく貢献し、こちらのプロジェクトも成功を収めました。

森永製菓の『母校にinゼリー』

最後に紹介されたのは、毎年行われている森永製菓のキャンペーン『母校にinゼリー』です。内容は、ウェブ上のプラットフォームを通じて自分の母校に“さしいれ投票”を行い、抽選で当たった学校の部活動に、実際にinゼリーが差し入れされるというもの。部活生だけでなく、OBOGも巻き込んだ当キャンペーンは、初年度から大きな反響を呼びました。

①部活生のインサイト
「部活動でinゼリーを飲んでほしい」という目的を果たすため、Twitter上で部活生のインサイトを探っていた佐久間氏は、先輩から差し入れてもらったinゼリーの写真とともに、「まじ神」と書かれた投稿を見つけます。常温保存でき、栄養補給で小腹を満たすこともできるinゼリーは、まさに差し入れに最適な商品です。その強みを活かして、「部活動の差し入れの定番=inゼリー」という新しいポジションを獲りに行く戦略を、企画のコアに設定しました。

②差し入れ文化の現状
部活動自体は狭いマーケットですが、差し入れと言う文脈であれば、学生時代に部活動に入っていた社会人=OBOGも巻き込むことが可能です。しかし、実際にOBOGからたくさんの応援や差し入れがあるのは、全国大会に出場するような強豪校の部活動がほとんどであり、そのようなチームは全国で一握りしかありません。この差し入れのハードルを下げ、忙しい社会人でも気軽に部活動を応援することができる仕組みが作れると、マーケットを一気に広げられるだけでなく、inゼリー=部活生にエネルギーを与えるブランドというイメージ形成に繋げることもできます。さらには、繋がるはずのなかった現役生とOBOGの繋がりが生まれ、OBOGからの応援が現役生の励みになるという好循環が生まれることも期待されました。

③差し入れターゲットに対する行動喚起と情報戦略
そこで、社会人に対してinゼリーを差し入れする行動喚起を行うために、部活動に取り組んでいた時のことを想起させるようなコピー「あの日の自分にさしいれを」を設定し、母校の部活動を選んで簡単に投票できるプラットフォームを作成。投票数ランキングを表示させることで、より応援心を煽ったり、学校やエリア別でPR活動を行うなど、投票を促す仕掛けを複数用意しました。

また、キャンペーンの話題を広げることを意識して、投票後にSNSシェアできるクリエイティブが生成される仕組みも用意。シェアが広がることにより、キャンペーンを知らなかった人々も、「自分の部活にはどれだけ投票されているだろう?」と気になってサイトを訪れ、投票するという流れをSNS上で生むことに成功しました。自分には賞品が当たらないという、少し異例なキャンペーンでもこれだけ話題化し、毎年の恒例行事になるほど定着化しているのには、人々の行動から逆算して設計された、情報戦略があったのです。

クリエイティブディレクターとPRパーソンのシナジー効果

両者が手掛けた事例には、異なる立場でありながら、共通して

  1. ブランドが持つ根本的な価値を活かすことに重きを置きつつ、
  2. そのブランドが勝てる軸を探り、
  3. 世間の関心や生活者のインサイトとの接触点をつくって
  4. 継続的に機能するストーリーを描く

という企画作りで大切にしている要素が見受けられました。

「ブランド視点」と「生活者視点(=メディア視点)」のバランスを取ることは、クリエイティブディレクターとPRパーソンの双方に求められるスキルセットであると言えますが、双方の得意領域を活かし、より企画づくりの上位から協業していくことで、ブランドの可能性をさらに広げることができるかもしれません。今後も広告クリエイティブとPRの融合が生み出すシナジー効果から、目が離せません。


佐久間崇 株式会社Saku 代表 | クリエイティブディレクター|ストラテジスト
ADK、電通CDC、電通デジタル執行役員を経て、2021年 Saku 設立。武蔵野美術大学の非常勤講師や宣伝会議コピーライター養成講座の講師も務めており、これまでにカンヌライオンズやACCグランプリなど、数多くの国内外広告アワードを受賞している。企画モットーは「ハッとしてグッとくる。」

小林 秀行 株式会社マテリアル|ストーリーテリングセンター ゼネラルマネージャー
雑誌編集者等を経て、マテリアルへ入社。その後TBWA HAKUHODOへと転職し、HEAD OF PRとして多数の大手クライアントのPR案件を牽引。​2020年11月より再びマテリアルへ。受賞歴として PRアワードグランプリ シルバー、Cannes Lions PR Gold等。​ニュースになる企画とニュースになる情報設計を構築することを得意とする。

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第三者の商品評価が小売を動かす!テスト誌LDKが消費行動に影響を与える理由 https://pr-genic.com/4326 Mon, 08 Mar 2021 23:00:27 +0000 https://pr-genic.com/?p=4326 優れた商品やさまざまな情報で溢れ、モノ選びにも一苦労な現代。オンライン上で買い物を済ませる機会が増え、クチコミの影響力も大きくなる一方で、発信元や根拠が不透明であり、信憑性が確証できないという課題も残ります。実際に試したくても試せない、欲しいけど失敗したくない。いつの時代も変わらない、これらの消費者ニーズを真摯に受け止め、専用のラボでいくつもの商品テストを行ってきた『LDK』は、人々の消費行動に対してどれだけの影響力を持っているのでしょうか。

今回は、気になるテスト商品の選定方法から、ベストバイに選ばれた商品の売れ行き、またLDKでのテスト結果が小売に与える影響まで、LDK、LDK the Beautyの責任者を務めながら、テストメディアの新たな可能性を模索するマーケティング事業部を統括する、株式会社晋遊舎編集局の木村大介さんに話を伺いました。

信頼と消費意欲を高める“第三者の商品評価”

令和時代、消費行動はどのように変化したか

晋遊舎の専門テストラボ「LAB.360」にて ※撮影時のみマスクを外しています

-木村編集長は、ここ数年の消費行動の変化についてどのように受け取っていらっしゃいますか?

今の物選びの2本柱は、大きく①クチコミと②第三者からの商品評価のふたつだと考えています。

数年前からクチコミは消費者の選択を左右する指標として重視されていますが、今後もさらにパワーを持ち続けると思います。年代に関係なく、Amazonや楽天などのECサイトでレビューを見てから購入する方は多いですし、「商品名 メリット」などと欲しい商品のメリット・デメリットを検索して検討することも多いです。他にも、美容コスメ系に関しては、アットコスメやLIPSのようなレビューが売りのウェブメディアもあります。“自分の体験を誰かに伝えたい”と思うのは人間の性なので、これまでもこれからも変わらないと思いますし、商品の購入を検討している側にとっても、ユーザーのリアルな感想や幅広い意見が得られるため、クチコミはモノ選びに必要な指標のひとつとして価値があります。

しかし、そんなクチコミにも問題点があります。クチコミでは、発言元や具体的な根拠までが把握できなかったり、ステマが紛れていたりするため、決して100%純粋なレビューとは言えないんですよね。また、デジタル・SNSネイティブ世代は消費者としても賢いので、そういったレビューを鵜呑みにすることもなかなかありません。そこでクチコミの信憑性を高めるためにも求められるのが、第三者としての根拠に基づいた「商品評価」です。

一般的なクチコミとLDKで行っている商品評価の最大の違いは、発言元だけでなく、具体的な客観的根拠も明確になっている点です。クチコミは、一部を除いてニックネームや無記名性である一方、LDKは身元をしっかり提示しています。また、クチコミは書いた人の主観が入りますが、LDKは検証項目のひとつである科学的データ等も重視しています。クチコミを見て商品を選択する人が増えれば増えるほど、クチコミの信憑性を確かめるためにも、第三者の商品評価を求めるニーズも高まると考えています。

-メディアやメーカーでも、第三者からの評価として専門家からコメントをもらうケースが多いと思うのですが、そことの違いはありますか?

我々も専門家のご意見をお聞きすることもありますが、その声を大切に汲み取りつつも、決してすべてをそのままに伝えるようなことはしません。専門家はあくまでも「オピニオンリーダー」としての立ち位置であり、専門家の意見を参考にさせていただきながら、最終的には自分たちでの検証も含めて評価しています。

メーカーや小売からの信頼も厚い“LDKのベストバイ”

-オンライン上での買い物が増えたことにより、更に「第三者の意見」が求められるようになったと思うのですが、メディアとして発行部数やPV数など何か変化はありましたか?

おっしゃる通り、第三者の意見の重要性や需要は確実に上がったと思います。the 360.lifeというWEBメディアを運営しているのですが、実際に去年の4、5月や今年のPV数はかなり好調ですし、外出自粛によって時間に余裕ができたからか、雑誌の売り上げも堅調でしたね。

-実際に、LDKさんのお墨付きを得たことによって、売上が伸びた商品などはありますか?

完全に消費者目線の商品評価だからこそでしょうか。「LDKやLDK the Beautyのベストバイがついた商品の売り上げが伸びた」という声は、各所からいただいています。

クチコミの文化が普及して、消費者も賢くなったことにより、メーカーがどんなに主体的に商品の魅力を訴求しても、それが響きにくくなってしまっている部分があります。また、「○○売上No,1」「○○クチコミNo,1」のようなマークも今や飽和してしまい、どれが本当に良い商品なのかが一目ではわかりにくい現状です。

しかし、LDKのベストバイマークは、忖度なく客観的なテストによって選ばれた“本当に良いもの”にしか付いていないマークであるため、消費者だけでなく、メーカーや小売からも厚い信頼をいただいています。ベストの数も現状それほど多くないため、その希少価値から実際の売り上げにも繋がりやすいようです。LDKのベストバイがついたことを、ニュースリリースやSNSなどで発信してくださっている企業もあります。このあたりは、現在新たな事業として行っているものもあるので、後ほど触れさせていただきます。

LDKの商品テストが消費行動に及ぼす影響

商品改良にも生かされるLDKの商品評価

後ろではヘアカラー剤のテストを実施中

-“忖度のない評価”となると、どうしても低評価を付けなければならない商品も出てくると思います。そうやって低評価をつけたメーカーからは、どのようなリアクションがありますか?

昔よりも、低評価に対するメーカーからの反発は少なくなりました。以前は評価によっては、「納得いかない」などと敵対視されてしまうようなこともありました。しかし、唯一無二の商品が生まれにくく、優れた商品が飽和している近年では、むしろ「取り上げて評価してもらいたい」などと、ポジティブな声をいただくことが増えました。社内では提案しにくかった改良点についても、LDKという第三者からの指摘によって聞き入れてもらいやすくなるなど、商品レベルのボトムアップに貢献できているようです。

また、さまざまな情報で溢れて、メーカー発信の広告が刺さらなくなってしまった時代では、第三者目線の評価が非常に重視されています。それは小売でも同様で、メーカーの主張以上に「世間的な意見」が重視されるため、実際にメーカー側が小売のバイヤーへ商品を売り込むような交渉の場でも、LDKの掲載が意思決定の材料として使われているという話を伺いました。大ヒットが生まれにくい分、メーカーは新商品の数でカバーしなければならないため、棚を取るのも一苦労です。その場面においても、LDKの忖度ない評価は参考にしていただけているそうです。

-そのような場面でも活用されることを想定して、小売側に対しても何かコミュニケーションを取ったりされていたのですか?

あくまで消費者に対する“本当に良いものを選びやすくしたい”という思いから生まれた雑誌であるため、正直そこまでの使われ方は当初予測していなかったですね。そのため、特別なことは特にやっておりませんが、LDKのお墨付きが売れているという結果や、普段の忖度ないレビューから、信頼をいただいています。

最近は、LDKの価値を感じてくださった小売との店頭コラボにも積極的に取り組んでいます。イトーヨーカドーの新百合ヶ丘店では、すでにコスメ専門の姉妹誌LDK the Beautyの情報発信コーナーを展開していますし、ドラッグストアのアインズ&トルペとの店頭コラボも新たにスタートしました。良い商品と出会える場を、店頭という“リアル”で提供できることは、我々にとっても初めての取り組みですし、非常に嬉しく思います。

販路ごとの人気商品や隠れ実力派商品をテスト

イトーヨーカドー新百合ヶ丘店のLDK the Beautyコーナー

-特に、マーケティングや広報の担当者は気になる部分だと思うのですが、普段テストする商品はどのように選定されているのでしょうか。

テストする商品数を増やすだけでは価値がないと思っているので、大きく下記カテゴリーの中からまんべんなく選定するようにしています。

  • 定番商品
  • テレビCMなどで積極的に打ち出されているような新商品
  • 店頭では見かけないが、楽天などのECで売上1位を獲得しているような商品
  • LOFTや東急ハンズなど、販路ごとに人気を誇っている商品
  • 派手な宣伝はしていないが、ずっと店頭の棚に置かれ続けている商品・・・など

「派手な宣伝はしていないが、ずっと店頭の棚に置かれ続けている商品」は特に、目立っていなくてもずっと売れ続けている=その商品力の高さから、根強い人気を持っている可能性がある。そういった商品の実力を知りたいという思いで選定しています。このように、目立っている定番商品から販路ごとの人気商品まで、様々なところからピックアップしてテストを行った結果、本当に素晴らしい商品が見つかることもあれば、その反対もあります。実際にテストをして初めて、商品の本当の良さや実力が明らかになることは往々にしてあるんです。

-本格的な商品テストを行う中で、広告の謳い文句と乖離がある商品に出会うこともあるのではないかと思います。

謳い文句と乖離がある商品は正直よくありますね。唯一無二の商品が生まれにくい世の中なので、他と差別化するために謳い文句を誇張してしまう気持ちもわかります。しかし、このようにテストを行うと商品ごとの差は必ず明らかになりますし、クチコミで見抜かれることもあると思います。プロモーションももちろん大切ですが、今は本当に良い商品は第三者のレビューによって拡散されるパワーを持っているため、いかに商品改良を繰り返して商品のレベルを高めていけるかが肝だと思います。

特集は読者のリアルな不満から逆算して考える

-特集はどうやって組まれているのですか?

生活必需品であり、たとえばシャンプーのように種類が多いものは、年1回以上必ず取り上げています。その他には、時勢に応じてヒットしているものや、季節性のあるもの、また読者から調査依頼があったものを中心に、特集を検討することが多いです。

-このコロナ禍で、調査依頼が増えたジャンルなどはありますか?

読者の声としてよく届いたものは、ハンドソープや、自宅で使える運動グッズのような、家ごもり需要品ですね。また、テストではありませんが、生活に関する豆知識や、生活が楽になるテクニックなどの記事は、コロナ禍で特に人気が上がりました。例えば、スーパーマーケットの活用術や、楽な買い物の仕方、「がんばらない夕ご飯」のための、ブランド別冷凍野菜の美味しさ比較など、読者層の消費者が楽に生活できるような情報のニーズが高まっています。

これらの特集は、主に読者との座談会で得た「リアルな悩み」や「不満」から逆算して、そこに対する解決策を提示するようなスタイルで組んでいます。「毎日スーパーに行きたくない」という不満があれば、「それじゃあ毎日スーパーに行かなくて済むいい方法はなんだろう?」と考え、それを企画に落とし込むようなイメージです。

-座談会は普段どのように行っていらっしゃるのですか?

これまでは、誌面やSNSで募った読者の方々や、スタッフつてで読者層に近い方々に集まっていただき、定期的に座談会を開催していましたが、コロナ禍で対面で集まることが厳しくなり、メールや電話で1対1でヒアリングを行うことも増えました。その結果、座談会を行っていたときよりもリアルな声が聞ける例も増えました。集団だと参加者の方々が周囲の声に同調して、「生」の本音に届かない場合もあるということがわかったんです。

どうしても座談会では、周りを意識した、見栄を張った意見になってしまいます。たとえば、誰かが「ファンデーションはやっぱりいいやつ使ったほうがいいよね」と言うと、他の参加者も同調して「そうだよね」と言います。しかし、その裏には実は「本当は安くていいものがあればそれでいいじゃん」という本音が潜んでいて、その意見を持った人のほうが多数派だったりします。美容意識の高い人の声がどうしても目立ってしまいますが、それ以上に“安くていいもの”を求めている方のほうが多いんです。読者層の中でも、ここに対する金銭感覚や意識の高さは異なるので、1対1で話すことによって内なる本音が聞けたのは嬉しい誤算でした。コロナが明けた後も、みんなで話す座談会に加えて個人ヒアリングは続けていく予定です。

本当に良い商品を消費者に真面目に届ける

LDKブランドそのものをマーケティングする

-今後LDKでテストしてみたいジャンルはありますか?

現状、読者層が特に興味のあるジャンルを最優先でテストしているため、まだまだテストしきれていない商品やジャンルがたくさんあります。今後はそれらを網羅するために、紙はもちろんウェブでもしっかり展開していくという方針です。雑誌では引きが弱くても、調査すべきジャンルは多岐に渡るので、そういったものはウェブでロングテールでやっていきたいですね。雑誌でニッチなテーマを取り上げることは新しい側面も多いのですが、反対にウェブの場合はニッチであることが大切です。

また、テストを売りとした出版社にしかできない事業の機能も高めていきたいと考え、編集部とは別にマーケティング事業部も組織されました。はじめは、商品選びに迷った際の指標になるようにと、消費者向けにベストバイマークを誌面上で掲載していただけなのですが、メーカーから「マークを使いたい」という依頼が増え、この2年で専門の部署を整えたんです。今後は、ベストバイマークが貼り付けられた商品のその後の売れ行きなど、統計まできちんと取っていければと考えています。

とは言え、ベストバイマークのみではその事実しか伝えられず、いかに優れているのかという部分まではわかりません。そこで最近は、マークを購入してくれたメーカーに対して、テストの様子や選定の根拠を動画に編集して、格安で提供するサービスも始めました。動画の使い先は多く、公式サイトのLPや、Amazonの商品写真一覧、店頭モニターなど、さまざまな場所で活用いただいています。実際に動画を店頭に設置してくださったあるメーカーは、180%くらい売り上げが伸びたと教えてくださりました。先ほど触れた小売りとのコラボも、マーケティング事業部が実施しています。売り場では、どの商品も同じようなことを謳っているため、どれを選ぶべきか悩んでしまいますよね。そんな時に、メーカー自身ではなく第三者によって発信された情報があることで、目にとめて信頼してもらえます。

出版業界の常識を覆すLDKの挑戦

-さいごに、テスト雑誌の責任者としてこれから挑戦したいことを教えてください。

出版業界は年々縮小傾向ですが、LDKはもともと広告収入に一切頼っていないため、出版不況の打撃は同業他社ほどはありません。その分他の雑誌に比べると原価率は高いですが、本を売ることだけに固執するのではなく、本を軸にあらゆる展開に挑戦しているため、大きな問題はないと思っています。

LDKのマーケティング部の役割は、雑誌を買わない人にももっとLDKの商品評価をリーチさせることです。これからは誌面だけでなく、ウェブでの展開や、ベストバイマークを活用したマーケティング、また売り場づくりに至るまで、さまざまな手段を用いて本当に良い商品を消費者に届けていきたいです。ただ純粋に、「世の中にある良いものがたくさん売れて欲しい!」という思いでこれからもたくさん調査し続けたいですし、商品が溢れる現代だからこそ、LDKが消費者の選択を助ける存在でありたいと思います。


木村 大介
1978年生まれ。東京都出身。生活情報紙記者、広告・広報制作を経て、2010 年に株式会社晋遊舎入社。2016年にLDK編集長に就任し、現在は編集局・LDK事業部長として、LDKとLDK the Beautyの責任者を務める傍ら、新たに誕生したマーケティング事業を推進する。

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買い物の新概念“応援購入”を生んだMakuakeが実践する 2軸の広報戦略 https://pr-genic.com/4291 Thu, 04 Mar 2021 23:00:01 +0000 https://pr-genic.com/?p=4291 “応援購入”という新たな購入体験の提供により、2019年12月に上場を果たし、ステイホームが推奨される中でも注目を集めている、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake(マクアケ)」。クラウドファンディング業界の中では後発でスタートした同社は、どのような認知の獲得や体験価値の提供・そしてブランディングチェンジによって、これほどの急成長を遂げてきたのでしょうか。今回は、株式会社マクアケの共同創業者・取締役の坊垣佳奈さんと、執行役員 ・戦略広報本部長の矢内加奈子さんに、Makuakeの急成長を支えた“2軸の広報戦略”について話を伺いました。

「応援購入」という新たな体験価値を啓蒙するPR

クラウドファンディング業界では後発だったマクアケ

株式会社マクアケ 共同創業者・取締役 坊垣佳奈さん

-マクアケの遍歴と坊垣さんのご経歴について教えてください。

坊垣:Makuake(以下マクアケ)は、2013年にサイバーエージェントの子会社としてスタートしました。私は共同創業者が3人いる中の1人で、経営に携わりつつ広報も担当していました。マクアケの創業前に、サイバーバズという子会社の立ち上げと経営を経験したのですが、当時から代表の藤田には、「ベンチャーにはPRが必要」ということを再三言われていました。特にマクアケの場合、業界的に2~3年遅れで参入した後発企業だったため、戦略上でPRに注力すると決めて、経営と兼任しながら広報業務にも取り組んでまいりました。

-具体的にどのような広報活動に取り組まれていたのですか?

坊垣:先発のサービスに対して、いかにして追い付き、追い越すか。“後発の小さい会社”という印象を与えないために、まずは露出の質よりも量を重視した活動を行いました。

とは言え、一般的にも言われているように、創業当初は露出させられるネタがなかなかありません。そこで、マクアケの広報スタイルとしてひとつ明確に気づいたのが、“Makuakeで始まるプロジェクト自体が広報対象であるべき”ということでした。Makuakeのベースには、「新しいチャレンジを応援する仕組み」という方向性があったため、会社の広報をするだけでなく、「プロジェクト広報」にも取り組むべきだと気付いたんです。

生産者(Makuakeでは「実行者」とよびます。以後「実行者」)側においても、リソースやノウハウ的な問題から、新しく始まるプロジェクトをPRできていないケースが非常に多いです。そのため、実行者の広報を代行することは、プロジェクトにとってもコーポレート広報にとっても、大きなメリットになると考えました。

-マクアケ社内はどのような広報体制になっているのですか?

矢内:プロジェクト専門の広報チームと、コーポレート専門の広報チームの2部署編成です。毎月400件以上のプロジェクトがマクアケで始まっており、それらの全てが広報の対象であるため、必然的にマクアケ社内にPR会社があるような体制になっています。実に幅広い業界やメディアと関わることが出来るのは、プロジェクト広報の醍醐味のひとつです。

2014年に入社した当初は全くの広報初心者だったため、プロジェクト広報では、まずはプロジェクトのひとつ一つについて精通することを心掛けました。それに加えて、このメーカーはその市場の中でどのような立ち位置なのか、世間はその市場に対してどのような反応が多いのか、プロジェクトを市場や世の中全体から見た時の視点も必要です。これらをインプットした上で、メディアが求める情報に沿って、ネタを調理して何本も企画を組み立てながら、メディアリレーションを作っていきました。

1ー2.“クラウドファンディング=資金集め”イメージからの脱却

株式会社マクアケ 執行役員・戦略広報本部長 矢内加奈子さん

-コーポレート広報とプロジェクト広報の2軸展開をする中で、特に意識されていたことや広報活動を通じて最も訴求したかったことはありますか?

坊垣:クラウドファンディング業界の中で後発だったことに加えて、初めの頃はMakuakeの独自性やブランドも明確に持てていない状態でした。そのため、初期フェーズはとにかく規模でインパクトを出すために、「業界ナンバーワンの記録を作りました」「あの大手企業がMakuakeでこのようなプロジェクトを始めました」などと、わかりやすい実績や数字を提示することを心掛けていました。プロジェクト広報においても、単純にプレスリリースを作成して配信するのではなく、数値的な結果を持って、直接記者さんに仕込みに行ったりもしていました。

矢内が入社して広報のリソースが拡充されてからは、今後のMakuakeとしての方向性を考えたときに、「地方中小企業の産業支援」に強みを発揮できる方向性が見えてきたため、特にその分野に注力して露出させていくことを意識しました。

矢内:また、当時のクラウドファンディングのイメージは、ただの「資金集め」でした。私が入社した2014年の夏の時点で、モノづくり系の事例自体は増えていましたが、「Makuakeは資金集めのサービスではなく、テストマーケティングやプロモーションとして使えるサービスである」という文脈は、まだ世の中に伝わっていなかったんです。そこでMakuakeのコーポレート広報としては、その文脈をプロジェクトのヒットの裏に沿えて啓蒙活動を行いました。

坊垣:どの業界においても、市場が成熟していない段階では、実態や事例は時代によって変化していくため、言葉だけが独り歩きしてしまうことが多々あります。直近では「D2C」などもその例で、Direct to consumerという意味の把握はされていても、具体的な中身まで細かく理解されているかというと、まだそうとは言えません。その結果、D2Cブランドとしては創業していないブランドが、D2Cブランドとして一括りにされるということが起こります。

クラウドファンディングも同様で、東日本大震災の後にレディーフォーさんが立ち上がったこともあり、初期の「資金集め」「寄付金集め」というイメージを引きずったまま、言葉だけが独り歩きしていました。そもそも名前も「ファンディング」なので、金融系のサービスと勘違いされることもあります。しかし、Makuakeの実態はイーコマースの一種に近く、仕組みとしては先行予約販売的な側面もある。それを、「資金集め」という初期のイメージのまま括られてしまいたくないという強い思いがありました。

また、Makuakeを利用して下さる実行者の多くは、中小企業やメーカーさんなど、ビジネスに取り組んでいる方々です。結果的に資金が集まってお店を開いたりもしますが、それが最終目的というよりは、マクアケ上で新しい顧客に商品を知ってもらい、応援購入してもらうことが目的になっているケースが多い。そこから、マクアケの最大の差別化ポイントは「応援購入」であると行き着き、2019年以降本格的にそのメッセージを打ち出すようになりました。

この言葉を定着させるには、Makuakeを応援購入サービスとして正しく認知してもらい、実際の体験価値を丁寧に伝えていくことが大切です。直近のテレビCMでもそこを強く意識しましたし、上場時以降は「クラウドファンディング」という言葉は、自分たちからは一切使わないようにしました。

“本当に良いモノ”を生活者に届けるPR

これまでにMakuakeから誕生したヒット商品

-現在のMakuakeユーザー層の構成を教えてください。

矢内:主な年齢層は30~50代で、男女比は6:4と、男性のほうが少し多くなっています。しかし、外出自粛ででフードやキッチン用品、基礎化粧品のニーズが高まったことにより、女性ユーザーも増加しました。

-Makuake発祥のヒット商品の中で、カテゴリーの概念を変えたようなプロジェクトはありますか?

坊垣:たくさんありますよ。ひとつめは、『popIn Aladdin(ポップイン アラジン)』です。これはプロジェクターの概念を変えた商品で、それまではプロジェクターは機器をテーブルや台の上に置くことが一般的でしたが、『ポップイン アラジン』は電気に設置するため場所を取ることもなく、おしゃれに使っていいただくことができます。映りもクリーンですし、天井から投影するためベッドルームなどでも使いやすく、ライフスタイルをアップグレードしてくれる商品です。

ふたつめは、『サカナイフ』です。こちらは、これ1本で簡単に魚をさばくことができる優れもので、富山のご夫婦がお作りになられています。既に3回もマクアケを利用して下さっていて、毎回反響が大きいプロジェクトのひとつです。

Makuakeでは、購入者の属性情報をデータ化し実行者へ提供するビジネス特許を取得しているのですが、そのデータを見る中で、『サカナイフ』を購入して下さってる方のエリアが、海沿いに集中していることがわかりました。そこで、1本で完結するという持ち運びの利便性から、“漁師や釣り好きの方が、その場で魚をさばくために使っているのではないか”と予測し、リターンに皮製の専用ケースを付けてみました。その結果、こちらも見事大ヒット。データとしてユーザー層やニーズのあるゾーンが明確にわかるからこそ、商品開発やテストマーケティングにも活用しやすいのもMakuakeの特徴です。

商品の魅力や生産者の想いを伝えるページ作り

-これらのプロジェクトに対して、キュレーターさんはどのような位置づけで実行者を支援されていらっしゃるのですか?

矢内:キュレーターは商品開発の前段からMakuake後のアフターサポートまで、一気通貫して実行者の支援を行っています。Makuake前の入稿自体は実行者ご自身にやっていただきつつも、入稿いただいた文章は全てキュレーターが確認をしております。実行者は、自分たちのプロダクトへの愛が強いあまり、訴求ポイントの見定めを迷っていることもあります。一方で情報を詰め込みすぎるのも良くないため、キュレーターが一般消費者の感覚を持って、客観的な視点で商品アピールのサポートを行っています。

-“良いモノ”なのに人々に知られずに埋もれてしまう商品が多い中で、商品の価値はどうすれば消費者に届けられると思いますか?

坊垣:今まではリアルで買い物をすることが圧倒的に多く、店頭ポップが情報量の限界でした。そのため、見た目と商品価格を照らし合わせて、「なんとなく買う」という購入体験がほとんどでした。しかし、商品が誕生するまでの背景や、込められたこだわりなどを知ることができれば、もっとモノを大切にする気持ちが芽生えたり、愛着を持って楽しく使えたりすると思うんですよね。背景を知らずにモノを買っては消費していたこと自体が、もったいなかったと思っています。

それが最近ではオンライン上で買い物をすることが増えて、ウェブ上の情報で意思決定を行うようになりました。もちろん、とにかくたくさんの情報を載せれば良いという話ではありませんが、これまで店頭ポップやパッケージが情報量の限界だったのに対して、ウェブでは比較的際限なく情報を提供することができます。そうなると、これまで伝えきれなかった魅力を伝えることが可能になります。先ほどご紹介した『サカナイフ』も動画で機能性を訴求しましたし、いかに魅力が伝わりやすい方法で発信していくかが大切です。

矢内:作り手である実行者の想いが伝わるようなページ作成をサポートすることは、常に意識していますね。また、プロジェクト広報担当者が、キュレーターと共に直接生産者とのやり取りに入り込む場合もあって、常に“その商品のターゲットがどこにいるか”という切り口をいくつも出すことを意識しています。

2016年に上映された『この世界の片隅に』もMakuakeによって映画化が実現されたのですが、この映画の場合、「舞台である広島の人にも刺さるのではないか」と仮説を立てて、地方メディアでの露出を狙いにいくようなことも行いました。このようにプロジェクト広報では、プロジェクトごとのメディア戦略設計と実行までを一気通貫して行っています。

-メディアに取り上げられた次の日には、やはりサポーター数は跳ね上がったりするのですか?

矢内:上がりますね。テレビやウェブなど、どのメディアに取り上げられてもサポーター数に跳ね返ってくるので、ここに注力することは私たちMakuakeと実行者の双方にとって、やはり非常に大切な部分です。

“三方よし”なポイントを探りつつ、時代を作る

-ひとりひとりのキュレーターが、PRパーソン同様の役割を果たされているのですね。中でも「文章」で商品の魅力を伝えたいとき、どのようなことを意識すればより伝わりやすくなると思いますか?

坊垣:あれもこれも伝えて…となると、受け手に大切な情報をインプットしてもらえないため、タイトルになる部分とファーストビューが非常に重要だと思っています。限られたスペースの中に、いかにポイントを絞って濃い情報を入れ込めるかが、キュレーターの腕の見せ所です。

また、もっと全体的な話で言うと、ひとつひとつのプロジェクトによって、時流や時代を作る意識も常に持つようにしています。「時流を掴む」というのは、PRパーソンであればよく言われることだと思います。しかしマクアケでは、新しいものが生まれる瞬間や、流行の源流を見れるので、むしろ「時代を先読みする力」が必要です。私たちもそれらの発信元になれるからこそ、時代の流れを作るという意識は、必ず持つようにしています。

矢内:私は、常に「三方よし」を心掛けています。三方というのは、①自社と、②メディアと、③社会で、「自社が伝えたいことと、メディアと社会が知りたいことが重なる部分はどこか?」というところから、一番打ち出したい訴求ポイントを探るようにしています。

Makuake発祥のヒット商品の中に、『Knot』という腕時計があるのですが、こちらは2014年開始のプロジェクトで、当時の世の中的にはスマートウォッチも普及し始めたタイミングでした。だからこそ、「なぜ今時アナログなのか」というブランドの想いに当たる部分そのものが、逆にメディアフックになるのではないかと考えました。このような考え方で、三方の接点を探っています。

-全プロジェクトの成功を目指して取り組まれている中でも、「正直これは達成が厳しいかもしれない」と思うようなプロジェクトもあるのではないでしょうか。

坊垣:正直、売れる自信がないものや、出してみたら思った以上に売れたものもあります。個人的に驚いたのは、5億円を達成したポータブル電源『RIVER600シリーズ』のプロジェクト。このプロジェクトが始まった数か月前に、千葉県で天災による大規模な停電が起こったため、停電に備えるためのニーズが高まっていたんです。ニーズには想像できるものと、想像できないものがあるため、ターゲットになりそうな人への相談や、社内SNSでの相談は積極的に行い、プロジェクトの可能性を膨らませることを心掛けています。

また、実行者の支援と一口に言っても、仕組みを提供して解決できる部分と、人の手が必要な部分と両方あります。メディアごとに切り口を分けて企画を組み立て、記者に情報提供するというのは、人の手が必要ですし、Makuake当日までのコンサルティングも人の手によるものです。私たちのゴールは、「プロジェクトを掲載すること」ではありません。ひとつひとつのプロジェクトを成功に導くためにも、キュレーターチームと広報チームには力を割いていますし、このサポートの手厚さは他のサービスと差別化を図っている部分でもあります。

Makuakeの今後の展望

脅威のリピーター率を誇る理由は唯一無二の体験価値にあり

-既に他のサービスとは差別化された様々な取り組みを行っていらっしゃいますが、今後もっと力を入れたい部分はございますか?

坊垣:Makuakeのもうひとつの特徴は、地方発のプロジェクトの成功数が多いことです。こういった地方アピールにも力を入れるために、現在は日本全国に支社を増やしています。今はコミュニケーションのオンライン化も進んでいますが、地方ほど人と人の繋がりで進む仕事が多く、そのエリアに入り込んでのサポートが求められる実情があります。また、地方発のプロジェクトでは、エリアにおける産業の特徴を掴んでアピールすることも大切です。そのためにも、今後はさらにMakuakeの地方への支社展開を進めてまいります。

また、Makuake前のコンサルティングに加えて、Makuake後のアフターサポートを強化するなど、事業実現に必要なものを揃えていきたいです。最近ではオンライン催事や展示会などにも取り組んでいますし、海外のクラウドファンディングサービスであるIndiegogo(インディーゴーゴー)さんと提携して、海外に向けた取り組みも行っています。地方拠点の拡充なども全て、足りていないピースを埋める作業なので、更なるサービスの拡充を目指します。

広報でMakuakeとプロジェクトの新時代を切り開く

-今後Makuakeの事業として、また坊垣さんと矢内さんご自身が挑戦していきたいことを教えてください。

坊垣:Makuakeでよりよい体験をしてもらえるように、例えばページ上でのコミュニケーションなどを通じて、応援購入体験の向上を図っていきたいです。現状でも「リピート率70%」という圧倒的な数字があり、高い価値体験を提供できているからこそ、今後も高いリピート率を維持していきたいです。

矢内:私は、応援購入サービスのブランディングを行っていきたいです。初期は「クラウドファンディング」という既存概念の波の中でのPRでしたが、今後は唯一無二の「Makuake」として、コーポレート広報を加速させたいと思います。それに加えて、これまでは実行者=挑戦する側へのフィーチャーが多かったですが、プロジェクトが成功するのはサポーターの方々のおかげでもあるので、サポーター側に対してのPR活動も力を入れていきたいです。

リピート率70%という驚異の数字を誇っているように、これまで10回以上Makuakeで応援購入して下さっている方は数万人に及びます。中には、100回以上も応援購入して下さっているような、熱狂的なファンの方もいます。今後は、「応援購入」がいかに素晴らしい体験であるかということを、消費者サイドへも積極的に訴求していきたいです。また、プロジェクト広報に関しても、最先端なものが集まっているサービスでもあるので、そこに関するデータをもってメディアに提供していきつつ、時代をつくるような広報を仕掛けていきたいと思います。

坊垣:矢内の言う通り、Makuakeでは物への愛着が深まるような、独自の購入体験を提供しています。これは他のクラウドファンディングサービスだけでなく、普通のイーコマースとも違う感覚です。「買い物を楽しむ」という行為を、オンラインでも実現する。ここに対して、新たな価値提供を行いたいです。


坊垣佳奈 株式会社マクアケ 共同創業者・取締役
同志社大学卒業後、2006年に新卒で株式会社サイバーエージェントに入社。株式会社サイバー・バズの他ゲーム子会社2社を経て、株式会社マクアケの立ち上げに共同創業者・取締役として参画。主にキュレーター部門、広報プロモーション、流通販路連携関連の責任者としてアタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」の事業拡大に従事しながらも、 様々な地方エリアでの講演や金融機関・自治体との連携などを通した地方創生にも尽力。またマクアケには女性社員が多く(管理職の女子比率は60%超え)、多様なライフスタイルを望む若い世代の活躍推進を意識した組織運営を推進している。

矢内加奈子 株式会社マクアケ 執行役員・戦略広報本部長
1988年生まれ。2012年新卒でサイバーエージェントに入社後、2014年に創業1年の株式会社マクアケに参画。戦略広報本部の立ち上げに従事。アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」自体のサービス広報に加え、数千件にのぼる「Makuake」発のプロジェクトに関する広報・PRを手掛け、マクアケの成長・拡大に尽力。2019年12月東証マザーズへの上場を経験し、2020年4月に執行役員に就任。

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「エシカルPR」は会話のラリーで作る。これからのPRについてみんなで考えてみよう #1 https://pr-genic.com/4195 Wed, 10 Feb 2021 10:25:32 +0000 https://pr-genic.com/?p=4195 本記事では、2月3日(水)にClubhouseにて開催されたセッション『ハフポスト編集部 南さん注目の「エシカルPR」って何?これからのPRについてみんなで喋ってみよう』のレポートをお届けします。※事前許可を得ております。


|登壇者プロフィール|
●南 麻理江 [ハフポスト日本版編集者 生配信番組「ハフライブ」プロデューサー]
広島県福山市生まれ。大学卒業後、博報堂・博報堂DYメディアパートナーズに入社。主にインターネット広告のセールス、企画・運用に携わる。2017年5月から現職。ニュースやインタビュー記事の執筆・編集をしながら、生配信番組「ハフライブ」の企画プロデュースを担当。2021年のハフライブは年間を通じて「SDGs」に取り組む予定。
●寺口 浩大 [株式会社ワンキャリア 経営企画室 PR Director]
ワンキャリア経営企画室PR Director。1988年兵庫県伊丹市出身。京都大学工学部卒。リーマンショック直後に三井住友銀行で企業再生、M&A関連業務に従事し、デロイトトーマツグループなどを経て現職。現在は経営企画とパブリックリレーションズ全般に関わる。コラム連載、カンファレンス登壇のほか、採用マーケットの透明化を推進するムーブメントを仕掛ける。共著に『トップ企業の人材育成力』。
●関 マテリアル 航 [株式会社マテリアル 執行役員兼Executive Storyteller]
1991年生まれ。学生時代にRedBull Japanでブランドマーケティング論を学び、当時20名程のマテリアルへ入社。同社にプランニングセクションを立ち上げる。これまで海外ではカンヌライオンズの金賞受賞をはじめ、国内外で100以上のアワードを受賞。現在は、自社の経営とプロジェクトにおける現場の肌感を行き来しながら、社会を舞台に「ブランド」と「社会」と「経済」とを結びつけるストーリーテリングの可能性を模索している。

企業にとっての“エシカルシンキング”って?

南:わたしは新卒で博報堂に入社したのですが、代理店時代はとにかく「ロジカルシンキング」が求められました。でもここ数年で、たとえば「Black Lives Matter」のように、ロジックだけでは語れないものや、解決できないことが増えてきたと感じています。そんな社会の変化を見ているうちに、これからの時代に求められるのは、「ロジカルシンキング」ではなく「エシカルシンキング」ではないかと思うようになりました。

企業においても同様で、純粋に売り上げを伸ばすための“マーケティング施策”ではなく、企業の思想や姿勢を示すような“理念的な施策”に取り組むところが増えていますよね。ハフポストの編集者としても、一見「きれいごと」にも見える、企業の理念的な取り組みを取材する機会が多くなっています。

始めの頃は、この“売上”と“理念”という二項対立をどうクリアしてるのかが、いまいちピンと来ませんでした。でも昨年の後半あたりから、「二項対立ではない」ことがわかってきたんです。今の時代では、「真・善・美」が揃っていない会社の商品は売れない。だから企業は倫理的に、グッドハートを持って仕事に取り組みますし、わたしたちメディアとしては、そんな企業を応援することも仕事のひとつだと思っています。

関:僕自身も、経済合理という観点において「ロジカル」と「エシカル」ってどうすれば両立できるんだっけ?ということを、ここ最近よく考える機会が多かったかもしれません。エシカルさが重要とは言え、たとえば経営者が意思決定をする上で「倫理」だけではなかなか首を縦に振りにくい部分があります。それは「無形資産」なのかもですが、それも含めて、全体像を設計できないと、きっと企業として意思決定を行うことは難しいんだなあと。

南:何周回ってもやっぱり「人権」は大事なんですよね。360度のステークホルダーに対する人権を前提にしなければ、ほころびが出てしまう。今は“本質が伴っていない会社”というのが見抜かれやすい時代だと思います。財務諸表だけではだめで、倫理的であること、良い会社であることが求められます。

とはいえ、経済合理性との両立はやはり難しいですね。きれいごとばかり言っていられないので…。Black Lives Matterを見ていても、日本企業が「支援します」と積極的に声をあげるのは、短期的にみた時にどうしても難しい側面があるのもわかります。だから企業としては、自らが手を挙げるだけでなく、こぶしを上げた人たちを応援することも大事だと思います。応援の気持ちが根底にあることが、エシカルPRの本質ではないかと。

ロジカルとエシカルは両立しうるのか

寺口:たしかに、もう二項対立ではなくなりつつあると思います。「儲かるか儲からないか」にリンクすることは結局大事で、やりたいという思いだけでは実行できないのが企業です。しかし、ロジックとエシカルは決して二項対立ではなく、もはや「因果」と言えるケースが増えています。

僕は人間の三大欲求のように、企業にも三大欲求があると考えています。企業は「財務諸表」を背負っているので、“儲かる、資産が溜まる、株価が上がる”この3つが三大欲求に該当すると捉えていて。このうち、儲かる(=PL)と資産が溜まる(=BS)はクローズドの情報ですが、時価総額だけはオープンな財務諸表です。だからこのエシカルシンキングを、いかに時価総額にヒットさせるか、これが因果になるポイントではないかと思います。

また、SNSの普及によって情報流通構造がオープンになったため、「不買運動」のようなソーシャルムーブメントも財務諸表にダイレクトに影響します。個人が声を上げることができ、情報流通構造がオープンになったからこそ、企業はエシカルPRを大切にしなければなりませんね。

南:一般市民だけでなく投資家の間でも、「ESG投資」(=環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のこと)という言葉をよく聞くようになりました。人権や環境への配慮が大事だと、投資家たちがエシカルシンキングをはじめているんです。

最近では、地球温暖化に直結する「石炭火力発電」に多額の融資を続ける日本の企業に対して、大学生が株主総会で発言し、「説明責任」を求めるようなこともありました。このような行動力を冷笑するのではなくて、応援できる世の中になっていかなければなりません。

第3の人格登場説?企業の法人格と組織人格

南:最近、サッポロの新商品の誤字が話題になっていましたが、SNS上ではフードロスなどの社会課題を背景に、サッポロを応援する動きが活発になっていましたね。こういう動きももっと増えてくると思います。

サッポロビールの高島社長は21日、発売を中止していた缶ビール「サッポロ開拓使麦酒仕立て」を一転して発売する経緯などについて、井上消費者担当大臣に報告しました。サッポロビールとファミリーマートが共
サッポロビール社長「LAG“A”R」誤表記ビールの販売を大臣に報告(テレ東NEWS) - Y...
- Yahoo!ニュース

寺口:サッポロの誤字は大きなミスですし、食品は人の命にかかわるものなので、軽々しく「よかった!」とは言えないという前提のうえで、今回はコミュニケーションのおかげで商品ロスがなくなりましたね。きっと大幅に費用削減できたでしょうし、ひとつの成功体験になったと思います。これまでは、「誤字なんかありえない」「許してはいけない」と主張する個人に企業が抑圧されてきましたが、そんな圧力が徐々に緩まりつつあるかもしれません。

南:エシカルシンキングで社会を見渡せば、ミスした企業を単に叩くだけということはなくなるはずです。

寺口:これも僕が最近考えてることなんですけど、「第3の人格生まれてる説」があるかなと思っています。これまでは、「個人格」か「法人格」のどちらかだったのが、新たに「組織人格」というものが生まれて。これは、言い換えると“仕事をしているときの個人”で、その集合体が法人になるのではないかと。だから、法人がミスしたらひどく怒られるけど、組織人がミスしたとき、一瞬「共感」がよぎって、許容されることがあると思うんです。ツイッターで人格のある企業アカウントが支持される理由がそうですし、今回のサッポロの件もまさにこれだったかなと思います。

法人は集合体なので、「強者」として捉えられがちです。だから個人から攻撃されやすくなります。しかし、中の人の顔が見えたとたんに、みんな優しくなるんです。だからこれからは、組織人の集合として法人を見せていくことが大事だと思いますし、ここも「きれいごと」と「マーケティング」の接合点になりうるかなと思います。

関:組織人って、アンコントローラブルな部分があるので、その分リスクもあります。そこを含めて、会社のブランドやカルチャーを作ることができている企業っていうのは、やはり強いです。その上で、人の顔が見えて、人の感情やストーリーが乗っかると、それが「言霊」になり、人の気持ちをハックするようになります。

エシカルPRに必要なのは世の中とのラリー

関:南さんにお聞きしたいのですが、エシカルPRがうまくいくブランドと、そうでないブランドの特徴って何かあるのでしょうか?

南:答えになっているかわかりませんが、エシカルPRで大事なのは、会話のラリーだと思います。1つのメッセージで完パケするプロジェクトは難しい時代ですから、ラリーをする前提で世の中に出さなければなりません。ロジカルシンキングにはある程度正解がありますが、エシカルシンキングには“全員を黙らせる”唯一無二の答えがないですよね。その人の立場や価値観によって、それが正しいと思うかどうかは人それぞれです。

例えば、女性をエンパワメントするプロジェクトや意見広告などが賛否を呼ぶことがあります。批判の内容はさまざまですが、よく見かけるものに「まずは自分の会社の女性役員を増やしてからPRするべきではないか」という声などがあります。メッセージや問題提起は「誰が言うか」という主語も大事なので、その指摘にはその通りだと思います。

この時に大事なのは、そのメッセージを打ち出した会社が、世の中と「ラリー」を続ける前提で発信しているのか? ということ。こうした消費者の声を目にした社長が、次の人事で女性をより積極登用するかもしれませんよね。というか、そうしてほしいです。一度打ち上げて終わりではなく、次の施策やアクションで本気を見せ続けることで、真価が問われると思います。

とはいえ企業から出すキャンペーンなので、その瞬間も100%のものを出さなければなりません。その100%を積み重ねていく中で、世の中と会話をしてチューニングすることが大切だと思いますし、そういう取り組みは非常に取材したいです。

寺口:2ラリーを1ラリーにする方法もありますよね。例えば、そのようにつっこまれることを予想して、あらかじめ「役員一覧」を広告に載せてしまうとか(笑)。

もうひとつ大事なこととして僕が思うのは、自己紹介をきちんと行うことです。企業の発信方法には様々な形があって、例えば時流に合わせて発信する「WHY NOW?」(なぜいま)タイプのコミュニケーションは、既に活発に行われていると思います。しかし現状の日本企業では、「WHY ME?」(なぜわたしが)が欠けている場合が多いように感じます。この「WHY ME?」がないから、「お前が言うな」というふうに叩かれてしまう。コミュニケーションを受け入れてもらうためにも、あらかじめ自己紹介を行っておくことは大切だと思います

南:自己紹介の大切さには同意なのですが、もはや今は「WHY ME?」を言っている暇すらないとも思います。2017年のカンヌライオンズで3部門でグランプリを受賞した”Fearless Girl(恐れを知らぬ少女)”も、ある意味、自己紹介すっ飛ばしのプロモーションですし、日本の多くの人はこの金融会社を知らなかったのではないでしょうか。もちろん、説明責任を十分に果たせるからこのように評価されたわけですが、最近はそれぐらいの切迫感も感じます。

関:そういう意味でも、ブランド主語だけで主張すると波風が立ってしまうので、「ブランドの主張のチャンスをデザインする」ことが非常に重要だなと思います。その上で、前提として個々人の情報に対する感じ方はそもそも多様なものなので、様々なステークホルダーのリアクションに対する想像力をどれだけ膨らませられるかがポイントになるかと。その上で、多様なステークホルダーと、ブランドとの結びつき方を、それぞれに合わせたストーリーを丁寧に紡がなければいけない。そうしたコミュニケーションを蓄積した結果、ブランドのアクションそのものに対する信頼が構築される。この流れを作れることは非常に理想的です。

この話は、南さんの「ラリー」に通ずると思います。今は、いかに相手に対する想像力を働かせながら、世の中とコニュニケーションできるか否かがすべてなんです。しかも、社会を一括りで「同じ人」として絶対に捉えない。ひとりひとり違っているという当たり前のことを、今更ながらきちんと踏まえて真摯に向き合っていく。さらに、それ自体も時間軸の中で様々な変化が起きます。これって非常に面倒で大変な作業ではありますが、それくらい腹を括って突破しなければ、ブランドは「社会」という舞台の中ではもう生き残っていけないとも思っています。

エシカルPRで「炎上」をアップデートする

寺口:これまでコミュニケーションを生産する側と消費する側の話をしてきましたが、その両脇にいる人たちからは、「正しいか正しくないか」の話ではなく、「好きか嫌いか」で議論されてしまうことが多いです。「正しいか正しくないか」には、倫理的、もしくは法律的ルールがあるので、ある程度判断しやすいです。しかし、そこに「好きか嫌いか」論争まで入り混じってしまって、結果的に炎上に繋がる。本来は、“正しい正しくないルーム”と“好き嫌いルーム”とを分けて議論しなければならないのに、SNSはそれらを全部ひとつにしてしまったと思います。

とは言え、この問題が解決されることはないので、「炎上」という言葉自体をアップデートさせる必要がある気がします。「炎上」という言葉がこのままの意味で使われ続けると、進歩は生まれないなと。中には“いい炎”もあったりするので、もう少し「炎上」という言葉について要素分解する時間が必要だと思います。

関:ちょっと話が変わるかもしれませんが、異なる意見をどうするかに関しては、ブランドのコミュニケーションも同じですね。たとえば、小学生に給食で「カレーかうどんのどちらを食べたいか」を選ばせたら、カレーも人気はあると思うのですが、多分うどんにもある程度票は入ると思うんですよね。これって社会も同じで、そもそも全員が賛成したり、同じ意見を持ったりすることって、この先きっとないと思います。つまり、反対意見があることを恐れていたら、何もコミュニケーションできなくなってしまいます。もっというと、0か100かみたいな二項対立にもならないかもしれない。人それぞれ意見や感情が異なることを受け入れた上で、いかに嫌われる勇気を持ち、違う価値観と向き合っていけるか。そういう真摯なスタンスでコミュニケーションをすることで、社会を舞台に「新しい答え」が見えてくるはずです。

今は多くの企業が「批判」を極端に恐れすぎていて、そもそも一歩踏み出すチャレンジができていない現状があります。あまりに「批判」が多く発生してしまうものは、そもそものコミュニケーション戦略の設計ミスも考えられますが、真摯に向き合った上での一部の批判であれば、いくらでも新しい答えはつくりだせるはずです。学校の話に戻ると、例えば「じゃあカレーうどんをメニューにしよう。場合によっては上にコロッケを乗せるオプションもある」ということもできますよね。

南:だからこそ「エシカルPR」が大切ですよね。どうやって企業のメッセージをラリーに変えて、多様な価値観の中で共存していくかは、PRパーソンの腕の見せ所だと思います。何回多く世の中とラリーするか、その勇気を持つことが初めの一歩です。

関:企業は世の中に対して、未完成なストーリーを走らせ続けなければいけません。そのためには、様々な登場人物に合わせて脚本を更新し続けなければいけない。「つくった情報を届けて終わる」という発想では、もう厳しい気がしています。それこそ南さんもおっしゃっていたように、ロンチ時点で「企画が完パケしている」というものは、もはやコミュニケーションとしては成立しないと、僕自身も肌で感じます。世の中と向き合って並走し、アドリブも含めてストーリーを更新し続けていく覚悟を持つこと。そして、一緒に向き合っていくために、チームのバイブスが通じ合うこと。これが、これからのPRに欠かせない大切な要素のひとつではないでしょうか。

……To be continued

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